選手のバックグラウンドを伝えるのも実況アナの見せ所
田口さんの筋金入りのゲーム愛は中学時代にまでさかのぼる。当時はニコニコ動画で一般のプレイヤーがプレイする様子を流すゲーム実況がジャンルとして定着しつつあった。
――いわば、ゲーム実況という文化の黎明期からずっとファンだったようですね。
中学時代から実況動画を見ていて、自分でもやりたいなと思いながら結局社会人になってしまいました。でも局アナになって本職の実況スキルを積むことができましたし、今はそれに加えてゲームへの愛情を隠さずに様々なイベントに携わっています。
――初期のゲーム実況文化とはどんなものだったのでしょう。
ゲーム実況のはしりとなったのは「よゐこ」の有野晋哉さんが「有野課長」に扮してひたすらゲームをプレイする番組「ゲームセンターCX」(フジテレビONE)ではないかと思います。有野課長のプレイ風景が視聴者にウケていました。
ゲーム実況って、見る側が共感できるのがよいところですね。素人がプレイ風景を流すだけでも、他のプレイヤーも自分と同じところで苦労しているんだってわかりますし、クリアできて歓喜の瞬間には「こいつも俺と同じじゃん」って感情移入できます。
――局アナ時代からゲーム実況も経験してきたのでしょうか。
eスポーツ、例えば大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)、APEX LEGENDSなどの対戦リーグやトーナメントの実況をやってきました。テレビ東京時代にアナウンス部とビジネス開発部を兼任していて、ビジネス開発の部門ではゲーム開発に加えてイベント運営を担当していました。
それら、プロゲーマーが集うeスポーツの大会ではプレイヤーそれぞれにストーリーがあります。実はゲームが弱かった、学校でいじめられていた...のようなバックグラウンドがあるけれど、ゲームの日本代表にまでなった、というようなストーリーを伝えることもeスポーツ実況の要素です。
一方で、リングフィットRTAやウマ娘の実況は、初見のユーザーが何の知識もなくてもゲラゲラ笑えるようなものを目指していますね。
――ゲームファン、そして本職のアナウンサーとしての実況スキルの自信のほどは?
まずはゲーム愛です。僕以外にもゲーム実況に進出しているプロのアナウンサーはいますが、少なくともテレビ東京では僕が一番ゲーム好きなアナだ、という自信を持ってやってきました。そして番組でどういう言葉選びをすればより人が集まるか、というディレクションの経験もあります。テレビのアナウンサーはただ実況をするだけでなく、ディレクターたちと打ち合わせで一緒に番組を作ることも仕事です。イベントをいかに盛り上げるか、視聴者を集められるか、という視点をフリーになった今も活かせていると思います。