九州最大の繁華街として知られる福岡市・天神の商業ビル「イムズ」が2021年8月31日に閉館する。「イムズ」は「Inter Media Station」(インター・メディア・ステーション)の略称。アートギャラリー、ホール、かつては自動車ショールームを備え、その名前のとおり「情報発信基地」としての役割に加えて、金色の目立つ外装でも市民に親しまれてきた。
閉館は福岡市が進める再開発プロジェクト「天神ビッグバン」が契機。イムズ開業は1989年で、商業ビルとしては若干短い32年の歴史に幕を下ろす。イムズの至近距離にあった天神のランドマークの福岡ビル(福ビル)、天神コアといった商業ビルはすでに姿を消しており、福岡市中心部は大きく姿を変えている。
金色に輝く有田焼のタイルに覆われる
イムズの土地は元々は福岡市の所有地で、「市民のためになる」などを条件にコンペで売りに出された。西鉄福岡(天神)駅の斜め前で、当時は福岡都心の「最後の1等地」とも称された。7グループが名乗りを上げ、激戦を制して三菱地所と明治生命保険(現・明治安田生命保険)の企業連合による提案が選ばれた。
イムズがオープンした1989年はバブル景気真っただ中で、3月には福岡市制施行100周年を記念したアジア太平洋博覧会(よかトピア)が開幕。福岡市の発展にも後押しされる形で、翌4月にイムズは開業した。地上14階・地下4階建てで、地下2階から地上8階にかけて、中央部分に吹き抜けを設けた。外観は、金色に輝く有田焼のタイルに覆われた。
その後、福岡三越(1997年開業)、福岡パルコ(2010年開業)などが天神に新規出店し、2011年の九州新幹線開業で博多駅周辺にも商業施設が増えて競争が激化。売り上げが減少する中、福岡市が「天神ビッグバン」を打ち出したこともあって、三菱地所が19年1月にイムズの建て替えを発表した。
「イムズ閉館で一区切り」ではない
福ビルは19年3月に閉館。20年2月には隣接するファッションビルの天神ビブレ、20年3月には天神コアも閉館した。この3施設の跡地は地上19階、地下4階建ての大型商業施設として生まれ変わる予定で、24年度内のオープンを目指す。
イムズ跡地の利用については、三菱地所が20年9月に「感染症対策を踏まえた安全・安心なまちづくりと、高付加価値なビルへの機能更新とを両輪で推し進めて参ります」などと発表。現時点で詳細は明らかではないが、22年度中に新築工事を始めたい考えだ。
「天神ビッグバン」は、福岡市が15年に打ち出した再開発構想だ。国家戦略特区を活用し、24年末まで10年間かけて、天神交差点から半径500メートル、約80ヘクタールについて、ビル30棟の建て替えを誘導し、延べ床面積を1.7倍、雇用者数を2.4倍に増やしたい考えだ。すでに20年5月時点で建て替えのための建築確認申請数は47棟におよび、そのうち35棟が建て替えを完了している。
天神ビッグバンを担当する福岡市の都心創生課では「今後も、まだまだ建て替えは誘導していきたい」としており、イムズ閉館で一区切り、といった見方には否定的だ。
イムズでは8月31日18時30分から館内の「イムズホール」で閉館セレモニーを行う。すでに観覧申し込みは締め切っているが、公式サイトやインスタグラムで中継する。営業終了は19時。感染対策のため、玄関などでのあいさつは行わない。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)