「抗体カクテル療法」と呼ばれる新型コロナウイルスの治療法が注目されるなか、同療法に使う点滴薬「ロナプリーブ」の国内での開発・販売権を持つ中外製薬の奥田修社長が2021年8月27日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見した。
ロナプリーブは、7月に特例承認を受けているが、軽症~中等症の患者に対して点滴で投与することが条件。米国では、皮下注射で投与したり、濃厚接触者に予防的に投与したりすることについて緊急使用許可が出ている。奥田氏は日本での申請についても「検討していく」と話している。
菅義偉首相が8月25日の記者会見で、「明かりははっきりと見え始めています」と述べた根拠のひとつが、抗体カクテル療法だ。用法や対象が広がれば、重症化のリスクを抑え、医療現場の逼迫(ひっぱく)を軽減できる可能性がある。
菅首相「すでに1400の医療機関で1万人に投与」
ロナプリーブは6月29日に申請され、7月19日に特例承認された。3週間でのスピード承認だ。中外製薬と日本政府は5月10日、承認された際は21年分を日本政府が確保する、つまり、日本政府が買い上げることで合意している。
供給量や、これまで投与を受けた患者数については、契約上の守秘義務を理由に奥田氏は明らかにしなかったが、菅氏は8月25日の記者会見で
「すでに1400の医療機関で1万人に投与され、重症化を防ぐ、極めて高い効果が出ているとの声が現場から寄せられている」
と話している。
奥田氏は、政府の新型コロナ対策に対する評価を問われ
「コメントする立場にない」
と応じた。ただ、元々は入院患者への投与を想定していたロナプリーブが、酸素ステーションや宿泊療養施設の患者、自宅療養する外来患者にも条件付きで投与できるようになったことを挙げながら、投与が広がることで事態の改善につながることを訴えた。
「今後、新型コロナの感染がどういう風に動いていくのかは、なかなか予測が難しいところだが、今の時点では、抗体カクテル療法、ロナプリーブが、より軽症、中等症1の必要な患者さんに投与されて、重症化を防ぐことで、医療体制の逼迫(ひっぱく)を軽減できるように貢献できればと考えている」
新薬開発は「平時」の取り組みが重要
ロナプリーブは、元々は米国のリジェネロン社が開発した薬だ。日本が先頭に立つ形でのワクチンや治療薬の開発が進まない背景について問われた奥田氏は、「平時」の取り組みの重要性を強調した。
「米国の例を見ていると、平時から感染症に対する取り組み、あるいは今回広く使われているメッセンジャーRNAのワクチンについても、政府とともにベンチャー企業、あるいは製薬企業が協力しながら、その技術を開発してきた、磨いてきたというところがある。日本においても、今、議論の最中ではあるが、パンデミック(世界的大流行)が起きる前から、平時の中で、新しい技術、あるいはサイエンスに取り組んでいくことが必要」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)