日本を代表するロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL '21」(以下、フジロック)が新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催されている。
開催にあたっては、場内での飲酒禁止や抗原検査キットの配布といった感染対策を実施。一方、新潟県では新型コロナウイルス感染拡大が続いており、地域の医療体制などを踏まえ、直前に出演を辞退した人もいる。
感染拡大下での大型フェス。辞退者と出演者、それぞれの思いは。
辞退の津田氏「ジャーナリスト/アクティビストとして欺瞞になる」
2年ぶりとなる今回のフジロックは2021年8月20日から3日間にわたって開催する。観客に対する入場時の検温、マスクの常時着用必須、場内での飲酒禁止(アルコール持ち込みも禁止)、ライブ中の間隔確保などコロナ対策を実施。希望者には無料で抗原検査キットを配布していた。
それでも、開催への不安は尽きない。新潟県では開催前日の19日、過去最多となる132人の感染者数を記録。フジロックで首都圏などからの来訪者が増えることで、さらなる感染拡大の懸念もある。
子どもに関する医療情報を発信する新潟大学小児科学教室の公式ツイッターは19日、「ツイートするかかなり悩みました」としながら、県内の医療体制を踏まえ「フジロック中に体調が悪くなっても充分な対応ができない可能性が高い」と投稿。参加予定の観客に「今からでも参加は辞めた方がいいでしょう」と伝えた。
開催前日にはジャーナリストの津田大介さん、経済思想家の斎藤幸平さん、ミュージシャンの大友良英さん、歌手・俳優の小泉今日子さんらが辞退を表明。津田さん、斎藤さん、小泉さんはトークライブに出演予定だった。
津田さんは自身のツイッターで、近隣の医療機関の状況、県内のコロナ病床稼働率の高さなどを理由に辞退を決めたことを説明。そして、次のような思いを語っている。
「もともと、コロナ禍で興行や芸術業界が割を食ったことは確かですから、最大限尽力したいという気持ちがありました。ゲストをお呼びする以上、司会である自分が一抜けするのはいかがなものかとも悩みました」
「参加者・出演者の一人ひとりが自分ごととして今回の事態を鑑み判断するきっかけを、自分の『進退』を通じて提供しなければ、ジャーナリスト/アクティビストとして欺瞞になると考えました」
「わたしはアーティストだ。音楽で生計を立てている」
辞退者がいる一方で、難しい状況下で出演を決意したアーティストたちもまた、思いを綴っている。
シンガーソングライターのSIRUPさん(2日目出演)は18日昼、ツイッターで出演にあたっての決意を伝えた。訴えたのは、日本の文化としてのフジロックを守りたいという覚悟だった。
「フジロックは日本が世界に向けて誇れる最大級の文化のステージであり、これを失うことは大きな損失になることは事実です。今回開催しないことで今後の日本の音楽文化に大きな打撃を生むようであれば、それは阻止したいです」
「僕はカルチャーを守りたい。みんなの仕事も守りたい、不安な気持ちを取り除きたい、全ての人が安心して仕事や好きな事をやれる世の中にしたい、ただそれだけです」
経済面から、開催の重要性を訴えたアーティストもいる。ロックバンド「GEZAN」(3日目出演)のボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポーさんだ。19日、連載している晶文社ウェブサイトのコラムの中で思いを書いた。
「生業にしてるのは音楽関係者だけではない。祭りにまつわるケータリングなどのフード出店も切実だ。巨大なビジネスに見えるがその内情は顔の見える個人店舗によって成り立っている。資本のあるオリンピックとそこは大きく違うだろう」
「わたしはアーティストだ。音楽で生計を立てている。会社員が電車に乗って出勤するのと同じように、わたしは現場にいき、音を鳴らす。それが仕事だからだ」
「批判や責任の一端を背負った上で、個人的な切実さを理由にわたしはフジロックのステージを全うする」
「今回の決断を後々後悔するのではないか」
感染拡大下での開催に、複雑な胸中を明かした出演者もいる。ロックバンド「DYGL」(1日目出演)は19日、バンドの公式サイトで思いを綴った。
「当然、この様な状況下で開催されるイベントを手放しで正しいと言い切ることはできません。今回の決断を後々後悔するのではないかと、本当に萎縮する思いです。納得して欲しいとも言えません。ある視点から見れば確実に間違っているとご批判を受ける事も承知です。ガッカリもされるでしょう。本当に情けない思いです」
その上で、出演理由を次のように書いている。
「しかし、何度考えても、個人や企業の自主的な頑張りだけに頼る日本の今の自粛要請だけでは、多くの人の心や生活、文化が崩壊してしまう。心苦しくも、開催までの残された時間にイベント自体の中止が無い限り、自分達の出来る最大限の感染対策を呼びかけながら、自分たちの立場で出来ることをやるしかない。これが、僕たちの考えです」
DYGLは、安全なフェスの成功を願う上では、参加をやめて「家で配信を鑑賞するのも一つの選択」だとした。今回、フジロックはYouTubeでライブ配信を実施。主要なアーティストのパフォーマンスを見ることができる。「自分たちにとって大切なものを守るため、今この時代にだけ通じる常識も必要なのかもしれません」