76回目の終戦の日にあたる2021年8月15日に東京・北の丸公園の日本武道館で行われた政府主催の全国戦没者追悼式で、天皇陛下が2年連続で新型コロナウイルスの感染拡大に言及した。収束の兆しが見えないなか、「私たち皆が、なお一層心を一つにし、力を合わせて」困難を克服することを呼びかけた。
菅義偉首相は首相としては初めて式典に出席し、「おことば」に先だって式辞を述べた。内容は安倍晋三前首相のものをほぼ踏襲。一部の文言が変更されたものの、戦争を繰り返さない決意を表す文言が「決然たる誓い」から「信念」になるなど、むしろ後退とも受け止められかねない変化だ。
「皆が手を共に携えて」→「皆がなお一層心を一つにし」
天皇陛下は20年の「おことば」で、コロナ禍について
「私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います」
と初めて言及。21年は「なお一層心を一つにし」という表現で改めて国民に呼びかけた。
「私たち皆がなお一層心を一つにし、力を合わせてこの困難を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います」
例年同様、
「過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い」
の文言も盛り込まれた。
一方、全国戦没者追悼式での首相式辞は、首相として歴史認識が問われる場でもある。20年の安倍晋三前首相の式辞では、19年まで繰り返して用いられた「歴史」という言葉が消え、「積極的平和主義」という単語が初めて登場。「安倍カラー」が強まったという指摘も出ていた。アジア諸国への加害責任にも言及してこなかった。
菅氏の式辞では、「戦没者の皆様の尊い犠牲の上に」が「戦没者の皆様の尊い命と、苦難の歴史の上」になり、「歴史」の単語が再び登場したものの、骨格部分は踏襲した。
「これまで以上に役割果たす」→「全力で取り組む」
文言の変化が比較的多かったのが終盤で、「世界をより良い場とするため」が「世界の誰もが、平和で、心豊かに暮らせる世の中を実現するため」に、「戦争の惨禍を、二度と繰り返さない」に続く「この決然たる誓い」が「この信念」に変化。「世界が直面している様々な課題の解決」に向けた取り組みは、「これまで以上に役割を果たす決意です」から「全力で取り組んでまいります」になった。
新型コロナについては「乗り越え、今を生きる世代、明日を生きる世代のために」だった表現を「克服をし、一日も早く安心とにぎわいのある日常を取り戻し」とした。
新型コロナの影響で、20年に引き続いて式典の規模は大幅に縮小された。19年は全47都道府県から遺族が参列したが、21年は22府県が参列を見送った。座席の間隔は大きく開けられ、遺族の参列者数も、19年の4989人に対して21年は約200人と、大幅に減少した。参列者は不織布マスクの着用が求められ、武道館へ入る際には検温も行われた。国歌斉唱は行われず、演奏のみ行われた。
式典には天皇皇后両陛下、菅氏、94歳から16歳までの遺族らが参列し、日中戦争と第2次世界大戦で犠牲になった約310万人を追悼した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)
(8月15日16時15分追記)
菅義偉首相と安倍晋三前首相の式辞の内容を比較する記述で、一部不正確な内容があったため、修正しました。