「後世に遊び継がれないのは大きな損失」 伝説的ゲーム「天地創造」の復活に立ち上がった3人の熱意

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   1995年に発売されたゲーム「天地創造」をご存じだろうか。スーパーファミコンで展開されたアクションRPGで、壮大な物語などが話題となり多くの人々に愛されてきた。

   この作品に魅了されたファンの一人であるkisatoさんは2021年7月21日、オンライン署名収集サイトchange.orgで、同作のアーカイブ配信を実現させるための署名活動を開始した。目指しているのは現行ハード(ゲーム機)への移植配信。たとえばニンテンドースイッチなどで同作をダウンロードして遊べるようにしたいと考えている。

   署名のあて先は同作の開発を務めたクインテットと販売元であるスクウェア・エニックス(以下スクエニ)。署名活動には、同作のサウンドクリエイターの小林美代子(現・高岡)さん、キャラクターデザインを務めた藤原カムイ先生も協力。国内外からアーカイブ化を望む声が集まっている。

   J-CASTニュースは署名の発起人であるkisatoさんと、署名活動に協力する藤原さんと小林さんの3人に7月末、署名活動を開始した経緯や「天地創造」への想いを取材した。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 瀧川響子) 

  • 取材に応じたkisatoさん(左)と藤原カムイさん(右)。小林美代子(現・高岡)さんはオンラインで参加。
    取材に応じたkisatoさん(左)と藤原カムイさん(右)。小林美代子(現・高岡)さんはオンラインで参加。
  • 「天地創造」のパッケージ画像(藤原カムイさんより)
    「天地創造」のパッケージ画像(藤原カムイさんより)
  • スーパーファミコン用ソフト「天地創造」。左下は藤原カムイさんが持参した関係者用の初期ロット。
    スーパーファミコン用ソフト「天地創造」。左下は藤原カムイさんが持参した関係者用の初期ロット。
  • 藤原カムイさんとkisatoさんが持参した天地創造の関連グッズ
    藤原カムイさんとkisatoさんが持参した天地創造の関連グッズ
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
    kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
    kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
    kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
    kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
    kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • 取材に応じたkisatoさん(左)と藤原カムイさん(右)。小林美代子(現・高岡)さんはオンラインで参加。
  • 「天地創造」のパッケージ画像(藤原カムイさんより)
  • スーパーファミコン用ソフト「天地創造」。左下は藤原カムイさんが持参した関係者用の初期ロット。
  • 藤原カムイさんとkisatoさんが持参した天地創造の関連グッズ
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)
  • kisatoさんのサンドアート(天地創造20周年記念動画より)

署名活動を行う3人

   ―― 皆さんの略歴と、「天地創造」とのかかわりについてお聞かせいただけますか。

kisato: 私はもともと「天地創造」の大ファンで、発売日である10月20日に2015年から毎年「英雄復活祭」というファンイベントをツイッターで開催しております。
「天地創造」に出会ったのは小学校6年生の時、テレビCMで初めて見ました。結構印象的なCMでキャッチコピーがすごくいいなと思いました。でも当時は小学生で、すぐにソフトを買ってもらえるような環境ではなく、それから1年後くらいに仲の良かった友達がやって見せてくれました。オープニングからすごくて、もうワクワクしちゃうんですよね。その後自分でも手に入れて、「天地創造」が今の自分の考え方とか生き方を作ってくれました。
小林: 私は幼少からピアノを習い、8歳で作曲を始めました。学生時代はキーボードやシンセサイザー、MTR(録音機器)などを用いて、いわゆる宅録で作曲をしながら、音楽制作会社のキューブに在籍しました。そこがゲーム音楽の下請け企業だったので、現場で一からゲーム音楽の制作を覚えました。20タイトルくらいのゲームの作曲に関わっています。
その後「天地創造」の開発会社・クインテットに入社し、同作の楽曲を手がけています。
藤原: JICC出版局(現・宝島社)の「週刊少年宝島」という雑誌で商業マンガ家デビューしました。そこから作家の大塚英志さんが仕事をくださるようになり、活動の幅が広がっていきました。
「天地創造」については、当時エニックスの雑誌だった「少年ガンガン」でマンガ「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」の連載をしている時にお話をいただきました。
キャラクターデザインを務めていますが、どうせなら内容にも関わりたいとお伝えし、手当たり次第に思いつく限りの設定などを送りました。実際にある世界を舞台にしていたので、「ここも旅したい」「あそこも旅したい」みたいな感じで。

   ―― エニックス(現:スクエニ)がゲームとマンガ両方に携わっている会社だからこそできたオーダーなんですね。

藤原: そうですね。現在は出版とゲーム事業が細分化されているようですが、当時はそれほどはっきりと分かれていませんでした。ゲームのコミカライズもしていましたが、現在は難しいんじゃないでしょうか。

「天地創造」が与えたインパクト

   ―― それでは、kisatoさんが署名活動を立ち上げた理由についてお聞かせいただけますか。

kisato: 私の中で「天地創造」は道徳教材みたいなものなんですよ。自然や動物を愛しいな、尊いなと思うようになったり、相手のことを考えられるようになったり、海外の風習等にも興味を持ったりしました。自分の人生を変えてくれたと言っても過言ではない素晴らしいゲームです。
このゲームが後世に遊び継がれないのは大きな損失だと思いました。一ファンとしてどうしてもこのゲームを残していきたい。また、このゲームとゲームを作ってくれた人たちにお返しがしたいという想いも大きいです。

   ―― ゲーム「天地創造」は、kisatoさんに非常に大きなインパクトを与えたんですね。

kisato:  ゲームをして感動したこと、ショックだったことがいっぱいあり、それがきっかけで本当にいろんなものに興味を持てるようになりました。 カムイ先生の描かれた世界観に心をわしづかみにされたことも大きいです。カムイ先生の描かれる世界観は、奥行きがあって美しいです。ゲームのオープニングの後には、パッケージの絵が出てくるのですが、その時点から心にこみあげてくるものがありました。
藤原カムイさんが苦労したパッケージ画像
藤原カムイさんが苦労したパッケージ画像
藤原: このパッケージのもとになった絵は、プログラマーさんがCGで作ったものと原画を合成していますが、普通は使わない脳みそまで使わないといけなかったので作中で一番苦労しました。構造物が全部中心に向かっている構図なので、パースが取りづらくその辺をどうごまかすかみたいな(笑)
kisato: 天地創造の美術がカムイ先生でよかったなと心から思います。そして美代子さんの音楽ですよ。
藤原: 素晴らしくてね。旋律がキレイなだけでなくずっと耳に残ります。初期のファミコン音楽の、反復で耳に残るものとはちょっと違うんですよね。
小林: 「天地創造」に携わる前の制作会社では一言だけ書かれた紙を渡されて、機械的に音楽を作る作業をしていました。クインテットの「天地創造」ではカムイ先生から世界観やキャラ絵をいただいたおかげで、世界が開けてより想像を膨らませて作曲できたのです。良いフレーズが浮かんできたのは本当にカムイ先生のおかげだと思っています。

3人を繋いだのはツイッター

   ―― kisatoさんは、小林美代子さんと藤原カムイ先生にどのように知り合ったのでしょうか。

kisato: 最初に知り合ったのは小林美代子さんでした。きっかけは、ファン活動の一環で2013年に制作した『天地創造』のフルカラーイラストアンソロジーです。私が主催で発行しました。
このアンソロジーについて、美代子さんがツイッター上で言及してくださいました。それを見た私が美代子さんのツイッターのダイレクトメッセージに連絡し、アンソロジーをプレゼントさせていただきました。ここから、交流が始まりました。

   ―― 小林さんはアンソロジーのどんなところに興味を惹かれたのでしょうか。

小林: 皆さんの絵から溢れる熱い思いを受け取りました。あとは発売から20年近く経っているのにもかかわらず、こうした活動をしてくださっている方がいらっしゃるということに感動しました。
kisato: 2015年には、美代子さんと「天地創造20周年記念動画」を制作しました。発売20周年を個人的にお祝いしたいと思っていることを美代子さんに伝えると、『一緒にお祝いしたいです。ファンの方に恩返ししたいです』とおっしゃってくれて。2020年には25周年記念動画も制作しています。
「天地創造20周年記念動画」で公開されたkisatoさんのサンドアート
「天地創造20周年記念動画」で公開されたkisatoさんのサンドアート

   ―― 藤原カムイ先生とはどういう経緯で知り合ったのでしょうか。

kisato: ある時カムイ先生が突然、「天地創造」に関する資料をツイッター上に公開されるようになりました。最初は、なぜ急に当時の貴重な設定画やビジュアルを惜しみなく大公開されたのか分かりませんでした。嬉しいながらも「何が起こっているんだ」と驚いていたら、カムイ先生がツイッター上で「25周年記念の動画を見て思い立った」と教えてくださいました。自分たちの動画がきっかけだったことに驚きました。
藤原: 25周年記念動画を見てから半年くらい経ってしまいましたが、大丈夫だろうと思って。遅ればせながら公開しました。
kisato: 美代子さんが反応して下さり25周年にはカムイ先生が声をかけてくださって・・・。活動してきてよかったなと本当に思います。二人が反応してくださらなかったら今日はなかった気がします。

   ―― 皆さんは現在、どれくらいの頻度で交流し活動されているのでしょうか。

kisato:  ほぼ毎日です。ツイッター上のグループDMでプチ会議しています。

制作サイドがアーカイブ化を望む背景

   ―― 小林さんと藤原さんは、どういう想いで署名活動に協力したのでしょうか。

小林: 制作サイドながら、このまま消えてしまうにはもったいない作品、あまりにもみんなの心に強く残っている作品だと思ったからです。先ほどkisatoさんも話していたように、人生観や死生観も学べるゲームで、子供のころに体験した大人が今の子供たちにプレイしてもらいたいという声をツイッター上で見て、引き継いでいかなくてはいけない作品なんだなと思いました。
藤原: 作った側としてはリメイクされるべきとか、そんなことはさらさら思っていません。しかし「天地創造」は当時の制作にかかわった人達にとって、一番いい時期に一番いい環境で作業できた奇跡的な作品なんじゃないかと思っています。同作以降はハードが変わり、ちゃんとしたものを作ろうとしたら莫大なお金が必要になってくる世界になりました。
「天地創造」は小さなビルの中で、みんなで学園祭のような気分で作れた最後の作品だったんじゃないかなと思います。

   ―― 当時の空気感を残したいという想いもあるのですね。

藤原: そうですね。「何で成果物が消えなきゃいけないのか」という疑問があります。 また、同作に関する何かをやろうとしたときに、なぜ許可が取れないのかという疑問もあります。
小林: 関係者が何もできないのをどうにかしたいという想いが3人にあります。

   ―― 関係者が何もできないというのは。

藤原: 音楽については、美代子さんは当時クインテットの社員だったので、権限は会社にあり、「天地創造」に関する音楽活動をしようと思っても自由にできない現状があります。
しかしゲームを開発したクインテットという会社自体は休眠中と聞いています。クインテットが復活するかどうかも分からないですし、立ち上がったら解決するという問題でもないと思います。何が問題なのか、これから探っていくつもりです。
署名運動のアーカイブ配信とは、現行機種への移植配信を指します。と同時に権利者の権利を守るための手続きでもあります。当時はゲームの世界がここまで広がるとは思っていなかったので、現場だけの契約でやっていました。この曖昧な契約を解消し、再契約をした上で移植を実現したいと思っています。

作曲家・小林さんがアーカイブ化によって叶えたい夢

   取材中、小林さんがハッとしたように声を上げた。

小林: 話の腰を折って申し訳ないですが、今5000人超えました!

   署名に賛同する人々が5000人という大台を超えた。賛同する人は現在も増え続けている。

   ―― 署名活動はとても好調ですね。

藤原: 海外のファンからの署名も非常に多いです。そこは復活させたい理由の一つなんですよね。

   ―― こうした反響をどのように受け止めておりますか。

kisato: 毎年ファンイベントを行うことで、ファンの「天地創造」への熱を維持する努力をしてきました。現在、そうした今までの活動がようやく実を結んだという実感があります。
これまで一緒に盛り上げてきてくれた人々に感謝しています。皆さんのおかげで、今日の活動があります。
藤原: 署名活動を通して、ファンの方々がいろんな創作活動をしていることを知り、感動しました。
すごくクリエイティブなファンの方が多い印象があります。「天地創造」がきっかけでゲーム業界を志し、クリエイターや作曲家になったという方もいました。ゲームがたくさんのクリエイターを生み出すきっかけとなったことは、非常にうれしいですね。
小林: ツイッターを中心とした署名活動に、25年前のゲームに約5000人の署名が国内外から集まりました。今まで声をあげなかったプレイヤーたちも呟くようになって、すごく手ごたえを感じています。とにかく大勢の温かいファンに支えられてここまで来たことに、ただただ感謝しかないです。未プレイの方にも少しでも興味を持っていただけたらご参加いただきたいと思います。
こうしたファンの方から熱い思いを受け取ったことで、また何か制作したいという想いも沸き起こりました。本当に励みになっています。

   ファンの熱量に後押しされた藤原さんと小林さんは、「天地創造」に関する新作に着手。藤原さんは名シーンを新たに描き下ろし、小林さんはその絵に添える新曲の制作に着手しているという。kisatoさんはそんな二人の活動を支え、ファン活動を盛り上げる役を担っている。

   ―― 今後の活動予定についてお聞かせいただけますか。

kisato: 署名を提出する目安となる人数はまだ決まっていません。欲を言えば10万筆とか集まったら嬉しいんですけども、そこまでは無理だとしても1万以上は集めたい。
9月3日~13日には藤原カムイ先生が個展を、10月には「天地創造」26周年記念も開催予定ですので、その期間は署名活動を継続予定です。 その後の活動は、賛同者の増加ペースを見て検討していきたいです。
小林: この活動によって「天地創造」が復活し、権利関係がすべてクリアになったら、私は念願の「天地創造」オーケストラコンサートを開きたいです。
kisato:やってほしいんですよ!アーカイブ化を実現し、権利関係もクリアにしていきたいと私も願っています。

   kisatoさんたちは、ゆくゆくは移植やリメイクを目指しながら、まずはアーカイブ配信を叶えたいと話した。

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