令和の怪物が、新たな境地で闘っている。
ルーキーイヤーは公式戦未登板に終わった千葉ロッテ・佐々木朗希(19)。今シーズンは一転、一軍での先発登板を重ね、5月にはプロ初勝利をあげた。
ただ、持ち前のストレートを打たれるケースも目立っている。佐々木は「納得のいくボールは少ない」と課題を口にする。
ここまで一軍5試合に先発登板
「自分は観ている側なんですけど、すごく感動させてもらいました。アスリートとして、本当に尊敬しかないです」
取材を行った2021年7月30日、日本は東京五輪フィーバーの真っ只中だった。佐々木も26日に卓球混合ダブルス(水谷隼・伊藤美誠ペア)の金メダル獲得を目にした。同じアスリートの活躍に、大きな刺激を受けた。
岩手・大船渡高校時代に最速163キロをマーク。「令和の怪物」と称され、19年ドラフトでは4球団競合の末ロッテに入団した。ルーキーイヤーの昨シーズンは身体づくりのため、公式戦未登板に終わった。今シーズンは3月のオープン戦で実戦初登板を飾ると、4月には二軍公式戦、そして5月16日には西武戦で一軍デビュー(5回4失点で勝敗つかず)。一つ一つ、階段をのぼっていった。
5月27日の阪神戦。2度目の先発登板は5回4失点で、プロ初勝利をあげた。ヒーローインタビューではウイニングボールを「両親に渡したい」と語った。東日本大震災の津波で父を亡くした佐々木の言葉は、人々の心を打った。ボールは後日、母が住む岩手・大船渡の実家へと届けられた。
続く6月10日のヤクルト戦では一軍での自己最速155キロのストレートをマーク。6回1失点の好投を見せた。ただ、プロの壁にも直面している。6月24日のソフトバンク戦、7月9日の日本ハム戦では、ともに敗戦。持ち前のストレートを打たれるケースも目立った。
直球は「シュートしても構わない」
一軍ではレベルの高い打者との対戦が続く。佐々木が特に印象に残っているとしたのは、村上宗隆(ヤクルト)、柳田悠岐(ソフトバンク)の2選手だ。「甘い球を一球で仕留めるところはすごい」。150キロを超える直球を、ともにスタンドまで運ばれた。
一軍での先発登板を重ねる中で、佐々木はどんな課題を感じているのか。
「自分の納得いかない球、失投が多く目立つ。納得のいくボールは少ないと思うんですけど、それに近いボールを、どれだけ高い確率で、多く投げられるかが大事になってくる」
佐々木の主な持ち球はストレート、スライダー、フォークの3つ。意識しているのは、変化球の精度向上だ。「変化球でもカウント、空振りを取れるように、考えてやっています」。新たな球種を増やすことは、現時点では考えていないという。
ストレートに対するこだわりは、さらに強いものがある。
「力のないボールを打たれてしまう。僕は別にシュート(回転)しても構わないと思っているので、しっかり指にかかった、力強いボールを投げる工夫をしています」
一般的に、シュート回転したストレートは打者にとって打ちやすいと言われる。それでも、ボール自体に威力があれば、シュート回転しても打たれることはないーー。これが、佐々木の「直球」に対する考え方だ。
野球以外に「本気出してやっている」ことは...
岩手から上京した佐々木のプロ生活も、2年目を迎えている。普段はさいたま市・浦和の選手寮で生活しつつ、チームの遠征時には各地へ帯同。「学生時代とは違うところもあり、順応するのは大変でしたけど、もうだいぶ、慣れたかなと思います」。
野球選手としての道をストイックに歩む19歳の青年。野球以外に、ハマっていることはあるのだろうか。
「野球以外...」
佐々木は少し考えこんでから、こう語った。
「歯磨きです。毎日やることなので。本気出してやっています。歯ブラシも電動歯ブラシに替えました。マウスウォッシュ、歯間ブラシも使っています」
プロ野球選手の中には、スマホゲームが趣味だという人もいる。佐々木は「去年は(ゲームを)やっていた」と話すが「今はリフレッシュのために、少しやる程度です」。プライベートでの意識も、ストイックだ。
五輪ブレイク中のプロ野球・エキシビションマッチでは2試合に先発登板。27日の阪神戦ではルーキー・佐藤輝明にホームランを打たれ、3回2失点だった。一方、8月4日の中日戦では5回1安打1失点と好投。プロ入り後の実戦では最速となる158キロをマークした。
佐々木は「中6日で先発登板できるように、準備をしていきたい」とリーグ再開後の目標をと語る。そして、自身の目指す「投手像」をこう示した。
「チームの力になって、チームから信頼される、大事なところで任せてもらえるピッチャーになりたいと思います」
野球にすべてを捧げる19歳。令和の怪物は、着実にその歩みを進めている。
(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)