新型コロナウイルスの感染拡大が続き、航空会社の決算も厳しい状況が続いている。ただ、コスト圧縮などの対策を進めてきたこともあって、1年前に比べれば赤字幅は縮小。国内線は需要の底堅さを示した。
2021年7月30日には、政府が東京都と沖縄県に出されている緊急事態宣言の期間を8月31日まで延長し、首都圏3県に新たに発令することを決めたばかり。それでも日本航空(JAL)とANAホールディングス(HD)の2社は、ワクチン接種が進んだことで、以前に比べてキャンセルが出にくくなったとみている。ワクチン接種率が高い米国ではすでに黒字転換した航空会社もあり、日本でも接種率の伸びが需要回復を後押しすることに期待を寄せている。
国内線の旅客収入は倍増、それでも「コロナ前」の3割
国境を越えた往来の制限が続く国際線では、「コロナ前」と比べて乗客数、旅客収入ともに「9割減」の状況が続く。ただ、国内線では回復の兆しが見えつつある。
JALとANA HDは2021年7月末から8月初めにかけて22年3月期第1四半期(21年4~6月期)連結決算を発表。JALは純損益が579億円の赤字で、前年同期の937億円の赤字から縮小した。国内線の有償旅客数は2.2倍の270万8000人で、旅客収入はほぼ倍増の380億円だった。それでも、コロナ前の19年4~6月期に比べると3割程度の規模だ。ANA HDも傾向はほぼ同じで、純損益は1088億円の赤字が511億円に半減。国内線の有償旅客数は2.5倍の320万人で、旅客収入は2.2倍の502億円。やはり、コロナ前と比べて3割程だ。
両社とも、緊急事態宣言が続いていることの需要への影響は限定的だとみている。JAL菊山英樹専務は8月3日の記者会見で、
「需要についてブレーキがかかっているのは事実」
とする一方で、今後の見通しについて
「純粋に予約が減っているというよりも、路線によって違う傾向を示しているが、沖縄については微減の傾向が出ていると思うが、それ以外の路線については、むしろ微増ぐらいの動きを続けている」
と述べている。ANA HDの福沢一郎専務も7月30日の記者会見で、「移動の制限について若干ハードが上がる形になる」一方で、「夏場動向については、大きな低下が今は見られない」とした。
この「底堅さ」の背景には、「新しい生活様式」の定着や、ワクチン接種があると両社はみている。
「新しい生活様式について、お客様の側が体を合わせていく、経験値を積んでいる。加えて、当然ながらワクチンの接種が進んでいる部分もあろうかと思う。特にワクチンの接種が進んでいるという点で言うと、どちらかと言えば50~60代の需要については、それほどダメージを受けない、あるいは純増につながっている、というトレンドはあると感じている」(JAL菊山氏)
「ご利用される方が感染対策を自らして、そのような中で移動している。供給者側の我々は、きちんと感染防止対策を十分に訴えてきた効果が出たのでは」(ANA HD福沢氏)
米国では大手3社中2社が黒字に
今回の決算では、JALは通期(22年3月期)の業績見通しを引き続き未定とする一方で、ANA HDは黒字化の目標を維持している。日本に先行する形で、すでに黒字化の目標を達成しつつあるのが米国の航空業界だ。航空大手3社(ユナイテッド、デルタ、アメリカン)の21年4~6月期決算では、デルタ、アメリカンの2社がコロナ感染拡大後初めて黒字に転換。ユナイテッド航空も大幅に赤字を縮小した。
日米の違いについて、JAL菊山氏は
「ワクチンの取り組み自体が早いということもあるが、さまざまなデジタル証明にかかわるいろいろな取り組みが先行的に進んでいる部分はあろうかと思う」
とみる。ANA HDの福沢氏は次のように話し、ワクチン接種率を上げて移動制限を緩和することが不可欠だとの見方を示した。
「今はワクチン接種の接種率が間違いなくカギになってくると考えている」
「例えばワクチンを接種した方から人の移動の制限を緩和する、ただしその大前提は、感染拡大防止策をきっちりした上で...。こういう取り組みを、より一層してもらえると、我々としても輸送機関としても非常に大きな形になってくると認識している」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)