JR東日本が磐越西線の会津若松~喜多方間で架線設備を撤去し、非電化運転を計画していると2021年8月3日、喜多方市議会全員協議会が説明した。JRは2022年度から設備の撤去を始める計画だと伝えている。
会津若松市と喜多方市を結ぶ区間だが、なぜ電車運転をやめるのか。JR東日本が今後を見据えた適切なローカル線運営を模索していることが理由と考えられる。
ハイブリッド車両でコスト減
磐越西線は郡山(福島県郡山市)~新津(新潟県新潟市)間のうち東側の郡山~喜多方間が電化され、電車運転が可能だ。しかし同線の運転系統は会津若松駅で分かれていて、郡山方面から喜多方まで直通する電車は少ない。代わりに非電化の新津方面からディーゼルエンジンで走る気動車が喜多方を経由して会津若松まで乗り入れる。
地上から電力を供給する電車運転は、架線など電力設備のコストが高く、乗客と列車本数の多い区間でないと採算が成り立たない。電化されていても沿線の過疎化で本数が減り、電化設備を撤去して気動車運転に切り替えた地方私鉄の前例が既にある。
JR東日本が代わりにこの区間に走らせる気動車は、GVE-400形といい、ディーゼルエンジンで発電機を動かしその電気で走行する「電気式」であることが既存形式との違いだ。他線区ではディーゼルエンジンで発電する電力と蓄電池からの電力で走行するハイブリッド式気動車のHB-E210系を既に実用化し、電車であるが蓄電池で走行し、非電化区間も走行可能なEV-E301系電車・EV-E801系電車も営業運転を始めている。本数の少ない地方線区では架線を新設せずともこれらの車両を導入すれば気動車からのCO2排出量減と車両コストの節約が実現できる。
会津若松~喜多方間では既に気動車列車が大半な上、将来的には郡山方面から架線が要らない蓄電池式電車が直通できる可能性を考えると、同区間の架線を保守コストも含めて維持する意味は乏しいとの判断だろう。
また同社は水素燃料電池で発電して走行するハイブリッド車両のFV-E991系の試験を2022年3月頃から鶴見線・南武線で開始する予定で、架線を必要としない電車の進化は続きそうだ。
これらはJR東日本の経営計画とも連動している。2021年4月30日に公表した21年3月期の決算説明会資料の中で、設備のスリム化のために架線や変電設備の撤去・電車のハイブリッド車への置き換え・単線化を掲げている。磐越西線の一区間を試金石に、他線区に拡大していくと思われる。
「非電化」のための条件は?
では、今後同様に電化設備を撤去し、電気式気動車やハイブリッド車で運転される可能性がある区間はどこが考えられるか。条件としては、
・電車運転ではコストパフォーマンスが悪いほど本数が少ない
・電車の優等列車や臨時列車が走らず、普通列車だけの運行
・電気機関車が牽引するJR貨物の貨物列車も走らない
が該当するだろう。このような条件を満たすJR東日本エリアの線区には、
奥羽線新庄~大曲間(山形県~秋田県)
信越線安中~横川間(群馬県)
越後線柏崎~吉田間(新潟県)
弥彦線全線(同上)
などが挙げられる。
奥羽線と信越線はかつて長距離列車が走る幹線だったが、新幹線の開業で旅客の動きが変わり、この区間は地域輸送だけのローカル線になっている。弥彦線と越後線は1980年代に電化されたものの沿線の過疎化で乗客は減っている。会津若松~喜多方間で実績を得られれば、非電化区間の拡大もあり得るだろう。既存の非電化区間を走る気動車も置き換えて車両を統一すれば運用も効率化できる。電車と気動車双方の特色を持つハイブリッド車両が地方線区のエースとなる時代が来るかもしれない。
(J-CASTニュース編集部 大宮 高史)
(2021年8月7日18時10分追記)画像キャプションの一部を修正しました。