新型コロナの感染拡大が本格化し始めた2020年1月から陸路・空路ともに国境を閉ざしている北朝鮮が、中国との貿易再開に向けた動きを本格化させた模様だ。韓国の情報機関にあたる国家情報院(国情院)が2021年8月3日に行った国会報告で、北朝鮮が国境近くに建設を進めてきた大規模検疫施設を8月中に稼働させるとの見通しを示した。
北朝鮮は食糧の需給自足ができない状態だが、国連食糧農業機関(FAO)は、必要な量の食糧を輸入できる計画を北朝鮮が立てていないとして、「21年8月から10月は、一般家庭にとって厳しい時期になる可能性がある」と指摘していた。さらに、21年夏は干ばつの被害も見込まれている。厳しい食糧事情を背景に、本格的な貿易再開に向けてかじを切った可能性もある。
8月中に中朝貨物列車の運行再開目指す
国情院の説明は国会議員に対して非公開で行われたが、その内容を野党「国民の力」の河泰慶(ハ・テギョン)議員らが報道陣に対して説明した。東亜日報など韓国メディアによると、北朝鮮は8月中に中朝貨物列車の運行再開を目指しており、中朝国境地域の義州(ウィジュ)飛行場に建設を進めている検疫施設の運用を同月中に始めたい考え。そのため、大規模に人員を動員し、施設拡充や補強工事に総力を挙げている。
義州の検疫施設をめぐっては、北朝鮮専門サイト「NKニュース」が21年4月、衛星写真を分析した結果として、軍用機の駐機場を取り壊して滑走路周辺に新しい建物と鉄道の駅が建設されているなどと報じ、「北朝鮮の主要な港や国境でも消毒施設が建設されている証拠がある」と指摘していた。
北朝鮮は3月以降、海路での貿易を一部再開している。輸入しているのは主に化学肥料や農薬で、作物の収穫量を増やすことを優先しているとみられる。それでも北朝鮮は食糧の自給はできない見通しだ。
国連食糧農業機関(FAO)が6月14日付けで発表した報告書では、20年11月~21年10月の1年間に、例年並みの106万3000トンの輸入が必要だと試算。だが、北朝鮮が輸入を計画しているのは20万5000トンに過ぎない。85万8000トンが不足する見通しで、これは北朝鮮で必要な食糧の2、3か月分にあたる。報告書では、
「もし、この差分を輸入や食料援助で十分に埋められない場合、21年8月から10月は、一般家庭にとって厳しい時期になる可能性がある」
と指摘している。
金正恩総書記が「人民の食糧状況が切迫している」
6月15日から18日にかけて行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会では、金正恩総書記が「人民の食糧状況が切迫している」と述べており、FAOの分析を裏づけている形だ。
その後も食糧事情が好転する兆しは見つからない。7月10日には、朝鮮中央通信が「西海岸と中部内陸の大部分の地域で高温現象が現れ、激しい干ばつ現象が持続している」として、水源が減って農作物が被害を受けているとする記事を配信。それ以降、干ばつ被害への対策を呼びかける記事がたびたび配信されている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)