大坂なおみに「日本人なのか?」...豪紙が五輪最終聖火ランナー「不適任」指摘 各国メディアで批判

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「大坂なおみは日本人なのか?」

   オーストラリアの日刊紙「オーストラリアン」電子版が2021年7月24日に公開した記事が波紋を広げている。

   記事では同国のスポーツライターが、テニス女子・大坂なおみ選手を東京オリンピックの最終聖火ランナーに選んだことは「間違いだった」と主張。これに、各国のメディアから批判が続出しているのだ。

  • 大坂なおみ選手(2018年撮影)
    大坂なおみ選手(2018年撮影)
  • 聖火台に立つ大坂選手(写真:AFP/アフロ)
    聖火台に立つ大坂選手(写真:AFP/アフロ)
  • 大坂なおみ選手(2018年撮影)
  • 聖火台に立つ大坂選手(写真:AFP/アフロ)

「何か気まずい感じがする」

   記事を執筆したのは、オーストラリアのスポーツジャーナリスト、ウィル・スワントン氏。同国の優れたスポーツ報道を表彰する「SportAustralia MediaAwards」を7回受賞した経歴を持つ。

   記事のタイトルは『How Japanese is Naomi Osaka?』(大坂なおみは日本人なのか?)。スワントン氏はまず、1964年の東京オリンピックの最終聖火ランナーに選ばれた、陸上選手・坂井義則氏について触れる。

「オリンピックの火を灯したのは、広島が核爆弾で破壊された日に生まれた一人の男だった。彼は、第二次世界大戦の灰の中から日本が立ち上がったことを示すために、無名の人の中から選ばれた日本人紳士だった」(日本語訳、以下同)

   スワントン氏は坂井氏の起用について「クラブレベルのランナーで、本物のオリンピック選手の足元にも及ばなかったが、それは関係ない。炎はスポーツを超えている」とする。

   スワントン氏はここから、今回の大坂選手の最終聖火ランナー起用は「不適任」だった、との論を展開する。

「下品に聞こえるかもしれないが、彼女はちょっとした吹き溜まりだ。彼女はフロリダからここ(日本)に飛んできて出場した。もっと良い候補者がここ(日本)で育ったのだ」
「大坂は1997年、大阪の中央区で生まれた。母親の環さんは日本人。父はハイチ人である。大坂が3歳のとき、一家はアメリカのニューヨーク州ロングアイランドに移り住んだ。それ以来、大坂はずっとアメリカにいる。もしこれがステート・オブ・オリジン(オーストラリアのラグビー・オールスター戦)の資格規定であれば、彼女は今大会でアメリカのジャージを着ているはずだ」

   スワントン氏は「彼女は日本の伝統を誇りに思っている」としつつ、「日本の一般の人々からは、彼女との深いつながりは感じられない」「何か気まずい感じがする」などと意見。「彼女にライターを渡したのは間違いだったと思う」と主張した。

   一方で、スワントン氏が最終ランナーにふさわしかったとしたのは、元プロ野球選手の王貞治氏、ソフトボール日本代表、元柔道選手の野村忠宏氏、新型コロナウイルスのパンデミック下で働く医師・看護師の4組だ。

   特に、王氏については「日本で最も尊敬されているアスリートであり、868本のホームランの世界記録を持つ野球選手である」と説明。「崇拝されている81歳であれば、日本人はティッシュを手に取っていただろう」とした。

台湾メディアは「矛盾」を指摘

   記事はオーストラリア国内で大きな波紋を呼んだ。問題視されているのは、スワントン氏の「人種」に対する認識だ。

   同国のジャーナリスト、マーク・フェンネル氏はツイッターで24日、自身も混血児だとした上で「このようなことはしないでください。周りの人が自分の人種を判断したがる世界で育つのはゴミのようなものです」と投稿。インターネットメディア「JUNKEE」も25日の記事で「外国人嫌いでナショナリスト的なレトリックで溢れている」とスワントン氏を批判した。

   国外にも波紋は広がった。27日には、イギリスの日刊紙「The Times」電子版で『If Naomi Osaka thinks she's Japanese, that's good enough for me』(大坂なおみが日本人だと思っているなら、それで十分)と題したコラムが掲載された。

   執筆したライターのサラ・トーア氏は「生まれた国、住んでいる国、母国語、市民権、パスポート、内なる感情、どれがあなたの民族性を決定するのでしょうか?『The Australian』紙のスポーツレポーター、ウィル・スワントン氏は、居住国が唯一の重要な情報であると考えているようです」と指摘。

   さらに「2歳からイギリスに住んでいるトルコ系イギリス人女性として、私は大坂選手のテニスラケットでスワントン氏の頭を殴ってやりたいと思っています」と、強い表現で批判した。

   台湾の日刊新聞「中国時報」電子版は、スワントン氏の「矛盾」を指摘した。27日の記事『大坂なおみは「東洋のオリンピック」で聖火を灯すには不十分なのか? オーストラリアのメディア:彼女は日本人には見えない』では、スワントン氏が王氏を最終ランナーに推薦したことに対し、次のように指摘している。

「王貞治も純粋な日本人ではないことに気づいていなかったのかもしれない」

   王氏は日本出身だが、父は中華民国籍。日本以外の国にもルーツを持っている。

尋ねるべきは「誰なのか」

   28日には、オーストラリアで展開するメディア「The Conversation」が、この問題に言及する記事を配信した。記事のタイトルは『Yes, Naomi Osaka is Japanese. And American. And Haitian』(ええ、大坂なおみは日本人です。アメリカ人です。ハイチ人です)。スワントン氏の記事『How Japanese is Naomi Osaka?』に対する「アンサー」とみられる。

   記事の執筆者は、豪クイーンズランド大学で日本文化を研究するイーファ・ウィルキンソン氏。同氏は「大坂なおみは2020年東京オリンピック開会式で大釜に火をつけた。この栄誉は世界に重要なメッセージを送りました。大坂は多様化する日本を代表しています」と主張。スワントン氏とは対照的に、大坂選手の最終ランナー起用を評価した。そして、こんな問いを投げかけた。

「彼女が本当に日本人なのか疑問に思う人もいます。代わりに私たちが尋ねるべき質問は(大坂なおみは日本人なのか、ではなく)大坂なおみとは誰なのかということです」

   ウィルキンソン氏は、日本・アメリカの二重国籍だった大坂選手が、19年に日本国籍を選んだ背景などに迫ったNetflixのドキュメンタリー『Naomi Osaka(大坂なおみ)』の内容を引用した。

「ドキュメンタリーの中で大坂は、日本国籍を取得することは当然の決断だったと語っています。『14歳のときから日の丸を背負ってプレーしていました』『日本のためにオリンピックでプレーすることは、秘密でも何でもなかったんです』」

   ウィルキンソン氏は複雑なバックグラウンドを持ちながらも、アメリカ国籍を放棄し、日本国籍を選んだ大坂選手の声に「耳を傾けるべき」と主張。「アスリートは商品ではなく、スーパーマンでもありません」と訴えた。

   大坂選手は最終ランナーとして聖火台への灯火を終えた直後の24日未明、SNSでこう語っている。

「間違いなく、私がこれまでに経験したことのない最高の運動の成果と名誉です。今の気持ちを表す言葉はありませんが、今は感謝と感謝に満ちていることは知っています。愛してる。みんなありがとう」
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