香港でグーグルやツイッター、フェイスブックが使えなくなるのではないか――そんな懸念の声が広がっている。国家安全維持法(国安法)の施行から丸1年が経ち、民主派の新聞「蘋果日報」(リンゴ日報)が廃刊に追い込まれ、一国二制度が事実上、反故(ほご)にされたとの指摘が根強いことが背景にある。
ただ、これらのサービスが使えなくなるかもしれないのは、グレートファイヤーウォール(金盾)として知られる中国のネット検閲システムの範囲が直接香港に広がるから、ではない。むしろ、香港で計画されている法改正が原因で、プラットフォーム企業が「香港での投資やサービスの提供を控えること」を余儀なくされるという懸念だ。
個人情報を無断でウェブサイトに公開したりする「ドクシング」(doxing)が問題に
問題になっているのは、21年に香港政府が提出した個人情報保護条例(PDPO)の改正案の一部だ。個人情報を無断でウェブサイトやSNSに公開する「ドクシング」(doxing)と呼ばれる行為をめぐる内容だ。
逃亡犯条例の改正案をめぐって19年に活発化した抗議活動では、警察官の個人情報がネット上で拡散される事案が相次いだ。自宅住所や子どもが通う学校が暴露されたケースもあり、ドクシングの問題がクローズアップされたことが法改正の動きを後押しした。
改正案では、違反者には最高5年の懲役と100万香港ドル(約1400万円)の罰金が課せられる。プラットフォームに削除命令を出すこともでき、従わない場合は、運営会社およびその従業員の責任を問うこともできる。
これに反発しているのが、いわゆる「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やツイッター、LINE、楽天などのIT企業でつくる業界団体「アジアインターネット連合(AIC)」だ。AICは7月5日、改正案に懸念を示す手紙を6月25日付けで香港政府側に送ったことを発表。手紙では、
「ドクシングは重大な懸念事項で、AICもこの見解を共有していることを強調したい」
とする一方で、ドクシングの定義があいまいなことなどを指摘しながら、改正案のリスクを
「コンテンツ削除要求の審査の関連で厳しい制裁を課すこと、特に個人の責任を追及することは、プラットフォームが要求をほとんど審査せず、コンテンツを過剰にブロックすることを助長する結果になり、適正手続きに大きな影響を与え、表現と通信の自由にとってのリスクになる」
などと指摘している。