新型コロナウイルスの影響で、夏の風物詩である花火の市場にも変化が起きている。密を避けるため多くの花火大会が中止となってしまった一方で、個人で手軽に楽しめる「手持ち花火」の売り上げは伸びているという。
J-CASTニュースは、花火を製造・販売するオンダ(東京都台東区)にコロナ禍の花火事情を取材した。
コロナ禍で「アナログ玩具」の市場に変化
オンダの恩田郷子常務取締役によれば、近年、手持ち花火の市場は縮小傾向にあった。キャンプや臨海学校などイベント時に楽しむものとされ、日常からは消えつつあったのだという。恩田さんは、「花火をやったことがない子が増えてきているような状況で危機感がありました」と話す。
しかしコロナ禍で、手持ち花火が再び脚光を浴びるようになった。
「去年は、河川敷やちょっとした広場などで花火を楽しむ人が増えました。弊社と消防署で共催した花火教室などで子どもたちや父兄に話を聞いたところ、花火大会がないから『マイ花火大会』を開いたのだそうです。着る機会が減ってしまった浴衣をお子さんに着せて楽しむ家庭もありました」
変化が起きたのは花火だけではない。同社で取り扱う、昔ながらの「アナログ玩具」も全体的に売り上げを伸ばしたという。
「最初に変化を感じたのは昨年3月でした。コロナ禍で学校もなくなってしまった時、家の前やベランダで遊べるシャボン玉がびっくりするくらい売れました。その後に、おうちで楽しめるプールセットやウォーターガン、けん玉や凧などの軽スポーツ用品が伸び始めました」
恩田さんは「昔ながらの玩具はこういう時に強いのだなと感じました」としみじみ。昨今はデジタルな玩具も増えつつあるが、伝統的な玩具の魅力を伝えていきたいと意気込んだ。
SNS上では「煙が少ない」花火が話題に
オンダの手持ち花火がSNSで話題となったこともあった。
ツイッターユーザーが2021年6月19日、「花火業者の企業努力に感動した」との書き込みとともに同社の花火セット「煙が少なめだからスマホでキレイな写真がとれる花火」を紹介すると、6000以上の「いいね」が集まった。ユニークなコンセプトが注目された。
恩田さんによれば、この花火は2011年から発売していたという。当初はスマホ利用者への訴求はしていなかった。開発のきっかけを
「小さなお子様は背が低いので煙を吸いやすいです。しかし私の息子もそうですが、花火好きの子供たちは、むせながらも泣きながらも花火を手放さないということがよくあります。そこで子供たちが安心して遊べる花火を作ろうと思いました」
と説明した。
また、「花火の煙が近隣の方に迷惑をかけるのではないか」という消費者の意見があったことも開発理由の一つだった。
開発は困難を極めた。線香花火のようにぱちぱち光る「スパークラー」という花火は比較的煙が少ないほうだ。しかしそれだけでは物足りないだろうと考え、色の出る花火に力を入れた。
「花火は火薬で光るものですので、どうしても煙が出ます。そこをいかに減らしていくか、また色によって使う薬品も異なるので、開発は非常に難しかったです。完成するのには数年かかりましたが、国産の花火メーカーと協力して、なんとか白や赤の火花が出る、煙が少ない花火を開発することができました」
時代の変化と花火
苦労の末に出来上がった煙の少ない花火は、住宅街の多い首都圏を中心に徐々に広まった。そして2018年ごろ、インターネット上で写真をシェアする文化が広まっていることを受けて「煙少なめスマホでキレイ」シリーズと名を変えてリニューアル。SNSに親しんだ若い層からの購入も増えたそうだ。
「手持ち花火は昔、駄菓子屋や玩具屋で一本一本を店員さんと相談しながら買うものでした。しかしこうした路面店が減っていき、花火の売り場はコンビニやスーパーに移り変わりました。対面販売が減ったため、パッケージで消費者の方に花火のコンセプトを伝える工夫を続けてきました。『煙少なめスマホでキレイ』シリーズがSNS上で話題になったことは、その地道な努力が認められたようでとてもうれしいです」
恩田さんによれば、今年の花火の売れ行きは出荷ベースで前年比2割増と好調だという。昨年に手持ち花火を楽しんだ人が「固定ファン」になってくれたのではと見る。
人気商品は「おウチ花火」シリーズで、住宅街で楽しめるような音や煙が少ないものだという。家庭で楽しめるよう低価格帯で展開している。恩田さんは、時代が変わっていっても日常に花火が残ってほしいとしてこう語る。
「昨今は家に仏壇がなかったり、身近にタバコを吸われる方がいなかったり。オール電化の家も増えていて、日常的に火に触れる機会が減ってきています。一緒に花火教室に取り組む消防署の方からは、火に対する恐怖がない子が増えてきていると伺いました。
そんなご家庭でも、生活の中に『花火』を取り入れてもらって、楽しみながら火への理解を深めていただけたら幸いです」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)