外岡秀俊の「コロナ21世紀の問い」(42)政治学者、宮本太郎氏と考える福祉のこれから

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「ベーシックアセット」の福祉国家

   こうした議論を踏まえて宮本さんが注目するのは「ベーシックアセット」というビジョンだ。「アセット」とは「ひとかたまりの有益な資源」を意味し、現金給付も公共サービスも含む。もともとはカリフォルニア州バロアルトの「未來研究所(IFTF)」や、フィンランドのシンクタンク「デモス・ヘルシンキ」などが提唱した考えだ。

   「ベーシックインカム」は現金給付、「ベーシックサービス」は国と自治体の公共アセットをすべての市民に行き渡らせることを目指す。これに対し「ベーシックアセット」は、私的・公共的なアセットに加え、「コモンズ」をその重要な資源として挙げる。

   「コモンズ」とは、コミュニティや自然環境、デジタルネットワークなど、誰もが必要とする社会共通の資産のことだ。もちろん現実には、個人や企業が占有する場合もあるが、本来であれば、誰に対しても開かれているべき社会の基本財だ。

   こうした人類共通の「コモンズ」を個人や企業が占有し、独占して利益を享受している場合には、たとえば「デジタル税」や「環境税」を課して、それを社会保障財源に充てる、という考え方も出てくる。「コモンズ」といえば一見抽象的に思えるが、実は極めて現実的なアプローチだと宮本さんは指摘する。

「とくにコミュニティというコモンズは、哲学者ジョン・ロールズが人間にとって最も大事な財とした『自尊の社会的基盤』、つまり私たちが自己肯定感を高めていく条件です。これをベーシックアセットにしていくということについては、視点の転換も必要です」

   日本では地域の伝統的共同体は、官僚制によって動員され、しばしば人々を囲い込み、拘束してきた。そのようなアセットは誰も要らないだろう。これに対して、ベーシックアセットとしてのコミュニティについては、人々がそこに属することを自ら選択し、場合によっては出て行くことも可能でなければならない。

   人々は、必要な現金給付と公共サービスを保障されることで、コミュニティとよい関係を築ける。家族コミュニティであれ、職場コミュニティであれ、地域コミュニティであれ、そこからしか生活の資を得ることができなければ、従属するしかなくなる。だめなら出て行ける(離婚できる、離職できる)ことや、家族であれば育児や介護の公共サービスが利用できることで、コミュニティはいきいきとして、アセットと呼ぶのにふさわしくなる。そのような観点から、誰にでも共通の尺度を当てはめるのではなく、個人や地域に応じたアセットの組み合わせが構想されるべきなのだ。

   こうして、これからの福祉のビジョン考えるうえで「ベーシックアセット」に着目する宮本さんは、「このようにベーシックアセットは、決して現実離れしたビジョンではありません。そして実は日本には、こうしたビジョンを根拠づける法規範もあります」という。それは日本国憲法第25条なのだという。

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