開催が間近に迫った東京五輪をきっかけに、膠着(こうちゃく)した日韓関係は動くのか。菅氏の2020年9月の首相就任以降、対面の正式な形での日韓首脳会談は実現しないままだ。韓国側は会談を求めているのに対して、日本側は元徴用工や慰安婦問題をめぐる韓国側の対応を理由に、一貫して否定的な立場を続けている。
そんな中で菅義偉首相は21年7月8日の記者会見で、仮に文在寅(ムン・ジェイン)大統領が五輪に合わせて訪日した際の対応について「外交上丁寧に対応するということは、当然」と発言。会談実現に含みを持たせた。ただ、成果が見込めない状態で会談に臨んでも国内世論が悪化するだけだとの懸念もあり、情勢は不透明だ。
韓国、G7サミットで「日本が一方的に予定を取り消した」と主張
6月に英国のコーンウォールで開かれた主要7か国首脳会議(G7サミット)では、「ごく短時間、両首脳の間で簡単なあいさつが交わされた」(加藤勝信官房長官)が、正式な形での会談は行われなかった。韓国メディアが「日本が一方的に予定を取り消した」とする一方で、日本側は「そのような事実は全くない」と完全否定。両者の言い分が食い違ったまま、焦点は東京五輪での会談実現に移っていた。
7月8日の菅氏の記者会見では、仮に文氏が東京五輪に合わせて訪日した場合は、日韓首脳会談を行う意向があるかを問う質問が出た。「行うのであれば、何らかの前提条件を求めるか」とも聞いている。
菅氏は、開会式の韓国からの出席者は未定だとした上で、日韓関係は元徴用工問題や慰安婦問題で「非常に厳しい状況にある」と指摘。懸案解決には「韓国が責任を持って対応していくことが重要」で「引き続き、韓国側に適切な対応を強く求めていくという立場に変わりはない」とした。その上で、
「訪日される場合は外交上丁寧に対応するということは、当然のことだと認識している」
と述べた。諸問題の対応が前提条件になるかは明言せず、会談に前向きな姿勢を示した形だ。G7サミットの時にように、日本側が会談を断ったという印象を国際社会に与えるのは得策ではないと判断した可能性もある。
朝鮮日報は7月9日、韓国政府関係者の話として、文氏が東京五輪の開会式が行われる7月23日から1泊2日の予定で訪日を調整していると報じている。ただ、この方向は必ずしも確定的なものではないとみられ、中央日報や通信社のニューシースによると、青瓦台(大統領府)関係者は、7月9日、記者団に対して、文氏の東京五輪開会式出席について「現在決まっていることはない」と述べている。さらに、この関係者は、
「首脳会談の成功とそれに伴う成果が予想される場合、訪日を検討することができるという従来の立場に変わりはない」
とも述べたという。
日本側が求める「責任持った対応」は...?
中央日報は、文氏の大統領任期満了まで1年を切ったことや、北朝鮮問題への影響を念頭に、「日韓関係改善に向けた文大統領の切迫感が強い」として、文氏が訪日する可能性があるとの見方を紹介。青瓦台関係者の話として
「日本との関係改善をしなければならないという文大統領の意志が強いのは事実」
「しかし、韓国が『意味のある会談』を訪日の条件として提示してきた状況で、それの確証を持てる返答が(日本側から)ないままで訪日を決定することは、国民情緒にも合わない」
などと韓国側の事情を伝えている。その上で、「成果なく手ぶらで帰ってくれば、韓国で『屈辱的』だとして逆風が吹きかねないという懸念」があるとしている。
ニューシースは
「青瓦台が『成果なき首脳会談』には応じないという原則を固守した」
「日本側が先に前向きに態度を変化させることを、遠回しに求めていると解釈できる」
などと解説している。
日本側は首脳会談については態度を軟化させたものの、元徴用工や慰安婦問題については、「韓国が責任を持って対応していくことが重要」と菅氏が記者会見で改めて明言したとおり、従来の姿勢を全く変えていない。韓国側の報道では両問題に対する韓国側の「責任を持った対応」には焦点が当たっていない。仮に会談が実現したとしても従来通りに主張を繰り返すとみられ、青瓦台関係者が期待するような「成果」が得られるかは不透明だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)