「『店名』は我々の個性を表現する一番の手段」 異彩放つ「岸本系」食パン店、生みの親が語るこだわり

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   セリフのような店名に、カラフルな外観。近頃、あなたの住む街に、こんな特徴の「食パン専門店」が出来てはいないだろうか。

   岸本系ーー。

   ネット上で、こう称される店舗群だ。手がけたのは、ジャパンベーカリーマーケティング(神奈川県横浜市)社長の岸本拓也氏。「考えた人すごいわ」「うん間違いないっ!」「どんだけ自己中」などのベーカリーをプロデュースし、近年の高級食パンブームを牽引してきた。

   数々のユニーク店を生み出してきたカリスマの、さらなる「野望」とは。

  • ベーカリープロデューサーの岸本拓也さん
    ベーカリープロデューサーの岸本拓也さん
  • ベーカリープロデューサーの岸本拓也さん

ド派手な衣装でイベントに登場

   2021年6月28日、都内で行われた新商品発表イベント。真っ黄色なコートを羽織り、一輪のバラ柄マスクを身につけたサングラス姿の男性は、こう語った。

   「なんてこれは豊かな時間なんだ。パンがある生活って、こんなに楽しいんだ」

   彼こそが、ベーカリープロデューサーの岸本拓也氏だ。

派手な衣装でイベントに登場した岸本さん(2021年6月28日)
派手な衣装でイベントに登場した岸本さん(2021年6月28日)

   岸本氏は外資系ホテルで広報・マーケティング担当として働いたのち、20代後半にベーカリーを開業。13年にはベーカリープロデュースを専門とするジャパンベーカリーマーケティングを設立した。

   手腕が注目されたのは、コロナ前の18年6月。東京・清瀬市に開業した食パン専門店「考えた人すごいわ」(運営:オーネスティグループ)が、変わったネーミングの行列店としてメディアに取り上げられ、話題を呼んだ。

   その後も岸本氏は、「どんだけ自己中」(19年、東京・杉並区など)、「真打ち登場」(19年、東京・文京区など)といった食パン店を相次いでプロデュース。「乃が美」「一本堂」「銀座に志かわ」などと並び、国内の高級食パンブームを牽引してきた。

「おい!なんだこれは!」「えっ!どうなってるの?」

   岸本氏プロデュースの食パン店は、国内だけでも約240店舗を数える。これらの店舗に共通するのは、店を訪れた際に受ける強烈なインパクトだ。

   店舗の外観には劇画タッチの人物画や、食パンをイメージしたキャラクターなどを描写。赤やピンク、黄色など鮮やかな原色系カラーを多用するのも定番で、街並みの中で異彩を放っている。

岸本氏プロデュース店「うん間違いないっ!」(東京都中野区)。カラフルなイラストが印象に残る
岸本氏プロデュース店「うん間違いないっ!」(東京都中野区)。カラフルなイラストが印象に残る
岸本氏プロデュース店「ふくよか本舗」(東京都江東区)。食パンのキャラクターが描かれている
岸本氏プロデュース店「ふくよか本舗」(東京都江東区)。食パンのキャラクターが描かれている

   何より独特なのは、その店名。デザインの世界ではあまり使われない明朝体で描かれているのも相まって、「普通ではない」感じを存分に漂わせている。以下はその一例だ。

「おい!なんだこれは!」(新潟県上越市)
「えっ!どうなってるの?」(京都府京都市)

   まるで問い詰められているようだ。

「キスの約束しませんか」(大阪府東大阪市)
「これは秘密にしませんか」(兵庫県尼崎市)
「大人はズルいと思いませんか?」(京都府宇治市)

   どこかで聞いた歌のようでもある。

   「愛」や「恋」をテーマにした店名も多い。

「君に惚れた」(神奈川県伊勢原市)
「まさかナンパ」(神奈川県横浜市)
「愛してる人きみだけ」(埼玉県所沢市)

   ずいぶんとアグレッシブだ。

「暮らせばわかるさ」(北海道札幌市)
「君とならいつまでも」(埼玉県さいたま市)
「わたし入籍します」(大阪府枚方市)

   お幸せに。

ネット上の意見「あまり気にしたことがない」

「お店をプロデュースする際は、基本的に『我が町に、我が一つの個性を』(打ち出したい)と考えている。(店舗像は)出店する土地、依頼されるクライアントさまの要望をうまく掛け合わせて作りますが、中でも『店名』は我々(ジャパンベーカリーマーケティング)の個性を表現する一番の手段だと捉えています」

   6月28日、J-CASTニュースの取材に対し、岸本氏はネーミングへのこだわりを語った。中には、呼ぶ際に「恥ずかしい」と思ってしまうような店名もあるが、こうした名前も「意図的につけている」という。「色々な人に話題にしてもらうための、良い手段だと考えています」(岸本氏)

   岸本氏プロデュースの店はいつしか、ネット上で「岸本系」と称されるようになった。岸本氏もこうした呼称を「認識している」というが、そもそもネット上の意見については「あまり気にしたことがない」と話す。

「都心部でベーカリーをプロデュースすることもあれば、過疎部でプロデュースすることもある。(ネット上では色々な声があるが)限られた商圏の中で、お店のことを知ってもらえるのが一番嬉しいです」
「これだけ尖ったことをやっていれば、ネットで(色々なことを)言われて当然だと思います。情報量が多い時代にあって、賛否両論あるのは仕方がない。叩かれることはあっても、味方ももちろんいる。店を愛してくれる地域のお客さまに対して、一期一会、向き合っていくのが大切なんだと思います」

今秋に「全都道府県制覇」 さらなる目標は...

   大都市圏を中心に展開してきた岸本氏プロデュースの食パン店だが、昨年は北海道や東北、四国など地方部でも出店を重ねた。

   プロデュースはパンだけにとどまらない。ツイストパンのような形をした抱き枕「堕落の一歩」の開発も手掛けた。岸本氏は6月28日の会見で「使っていただくと、間違いなく『堕落の一歩』に足を踏み入れると思います」と自信をのぞかせた。

岸本氏プロデュースの抱き枕「堕落の一歩」(ニュースリリースより)
岸本氏プロデュースの抱き枕「堕落の一歩」(ニュースリリースより)

   今後はどうするのか。岸本氏はこんな「野望」を語った。

「今年の秋には47都道府県への出店を達成します。日本には1700を超える市町村がありますが、ゆくゆくは『全市町村制覇』をしたいと考えています」

   日本中どこへ行っても「岸本系」ベーカリーに遭遇するーー。近い将来、そんな日が来るのかもしれない。

パンへの思いを語る岸本氏(2021年6月28日撮影)
パンへの思いを語る岸本氏(2021年6月28日撮影)

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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