自ら方針転換した広告事業者も
自主的に広告の健全化に踏み切った事業者もいる。
中国の検索大手バイドゥ傘下の「popIn(ポップイン)」は5月下旬から、自社の広告配信プラットフォームで配信基準を引き上げた。同社は新聞社や出版社、ネット専業メディアなど900以上のウェブサイトをネットワーク化し、提携する広告代理店140社の広告出稿を仲介する。
popInの発表文
具体的には、薬機法や景表法などに抵触する広告や、外見を揶揄するコンプレックス広告(※)の配信を禁止する。※詳報:YouTube「外見蔑視」広告に抗議の署名運動 体形・体毛など漫画で...発起人「人を傷つけることにもなるとわかって」
「今まで不適切な広告に目をつぶっていました。グーグルやフェイスブックのような大手でも出ているのに、なぜうちのような小さい企業がいけなのかと、エクスキューズを探しながら、正当化しながら、審査を通してしまっていました」
ポップインの高橋大介副社長は取材に、後悔を口にした。
広告の問題は数年前から社内で共有されていたという。19年10月にはサイバーエージェント、グノシー、ログリーなど9社と共同声明を出し、「ネット広告の健全化に向け、フェイク広告やコンプライアンス違反広告を根絶するために連携して対応策を検討していくことで合意しました」と宣言していた。
9社の共同声明
しかし、「平たく言えば失敗した」(高橋氏)。根絶に向けてガイドラインの策定や定期的な情報共有を予定していたが、足並みがそろわず形骸化してしまった。
配信基準の引き上げも行ったが、収益が大幅に下がり、代理店、メディアから猛反発を受けた。親会社からも改善を強く求められ、3か月ほどで元の基準に戻さざるをえなかった。横の連携の難しさ、提携企業への事前交渉の重要性を痛感したという。
転機となったのが、プロジェクターとスピーカ-が一体化した天井照明「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」の大ヒットだ。
広告主としての顔を持つようになり、会社のブランディングや将来性を強く意識するようになる。薬機法改正も控えていたこともあり、健全化にふたたび舵を切った。
「事業成長を考えたときに、私たちと組んでくださる会社が多いほどチャンスが広がると思っています。一時的に売り上げに打撃はありますが、正しいことをしていると認めてもらえ、コンプライアンス意識があると評価してもらえないと、ちゃんとした企業は組んでくれない」(西舘亜希子取締役)
自社で調査したところ、代理店140社のうち25社がグレーな広告を扱っていたことがわかり、「一緒に変わってもらえませんか」と直談判した。5、6社からは賛同が得られず取引停止した。媒体社にも理念を伝え、「(売り上げが)一時的に最大5割落ちる可能性があるが我慢してほしい」と理解を求めた。
課題の収益面は、大手の広告主を持つ代理店を増やして穴埋めを図ったという。高橋氏は
「法令を遵守した広告とそうでない広告が並ぶと、後者がどうしてもクリックされてしまう。なので、勝てなくなってそれにならってしまう悪循環がありました。『そうした広告をなくすので、良い勝負ができて成果も上がる』と広告代理店に伝えたところ、数社から快諾をしてもらいました」
と明かした。
引き上げ前は全体の10%ほど掲載拒否、修正依頼をしていたが、現在は4、50%と厳格化した。売り上げは初月で平均3割落ちたが、コンプライアンス意識の高い企業によるトライアル出稿が増えたことで回復基調にある。
「今回の決定の詳細を対外的にも発表したことで、事業の透明性は保たれたと思っています。あとは実績をしっかり作っていくことが重要になってきます。メディアさんには8月までにレベニューを戻すと約束していますので、良い広告を取って戻す。その後は知見をしっかり貯めていき、事故がないよう運転していきます」(高橋氏)
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)
広告をめぐる問題について、引き続き取材を進めていきます。情報をお持ちでしたら、https://secure.j-cast.com/form/post.htmlまでご連絡ください。