広告プラットフォーマーは「やめたくてもやめられない」
なぜ不適切な広告が蔓延してしまうのか。
通販会社の社長A氏が匿名を条件に取材に応じ、背景を次のように話す。
「D2Cという言葉(Direct to Consumerの略、ネットを通じて生活者に直接販売する取引形態)が流行ったことで通販事業者が増えているためです」「新規参入業者は、上場企業などの大きなブランドの広告を参考にしているはずです。大企業が法律違反をしていると、悪いことをしている感覚すらなく延々と違反のバトンが引き継がれていく構造があると思います」
「また、バレなければ問題ないと考えるアフィリエイト会社も比例して増えていると考えられます。広告表現を違反すればするほど利益率が高くなるため、手を染めてしまうのではないでしょうか」
ある代理店関係者は「ダイエット食品やバストアップサプリなどのビフォー・アフター写真はほぼ捏造です。それぞれ他人の写真を使ったり、フォトショップ(画像編集ソフト)で加工も当たり前です」と取材に証言した。
消費者庁の注意喚起チラシ
摘発を受けた事業者もいる。大阪府警は20年7月、医薬品かのようにサプリメントの効果や効能を宣伝したとして、販売会社「ステラ漢方」や東証一部上場の広告代理店「ソウルドアウト」の社員ら6人を薬機法違反の疑いで逮捕した。その後、業界に変化はあったのか。
「少し前までは、サプリメントの会社はとても多かったです。ステラ漢方が逮捕された影響で、(広告の掲載)媒体も健康問題も相まってサプリに関しては厳しくなり、現状はかなり減っていると思います。一方で、いまは基礎化粧品やコンプレックス系の化粧品(シミケア商品、スカルプシャンプーなど)で、薬機法や景表法を無視した会社が増えていると感じています」(A氏)
今年8月には改正薬機法が施行され、虚偽・誇大広告に対して新たに課徴金制度が設けられる。A氏は「遵法意識は生まれてくるとは思いますが、大きな問題にならない限りはチキンレースをする会社が多く、あまり変わらないのでは」と抑止効果は限定的との見方だ。
A氏は、広告主の無責任さも指摘する。
「正直怠慢だと思っています。弊社は代理店さんにお任せする部分も全て事前にチェックしています。企業努力でおこなえる範疇です。広告主が違反をしても、代理店やアフィリエイト会社に責任転嫁しても問題ないような構図になっていることに問題意識を強く持っています」
前述の消費者庁の検討会で、弁護士の池本誠司委員は「広告を展開して商品・役務を供給し利益を得る事業者=販売業者等が、広告表示の内容について責任を負うことが基本である」と強調している。
是正のためには、グーグル、フェイスブック、ヤフー、ラインなど大手広告プラットフォームのチェック体制強化も不可欠だと説く。
「違法行為を是とする広告主は常に居続けると思っています。なので、そういう方々が排除される広告媒体のロジックがないといけないはずです。テレビCMはまさにそうなっており、考査で表現の規制が入るため不適切なものが必然的に流れませんが、インターネットはそうなっていません。自社だけ基準を高くすると他社に広告予算が流れてしまい、グノシーのように(※)炎上しない限り収益的にやめられない状況が出来上がっている」(A氏)
※グノシー子会社digwellが虚偽広告を制作し、グノシーがアドネットワークと呼ばれる仕組みを通じて複数のウェブサイトに配信していたことが20年3月、毎日新聞と調査報道グループ「フロントラインプレス」の報道で発覚した。
グノシーは20年4月に広告掲載ガイドラインを全面改定し、社内の審査体制強化を発表した。審査の厳格化により、2020年5月期に全体の68%を占めていた美容・健康商品の広告は、2021年5月期第3四半期には24%と大幅に減少している。それに伴いアドネットワークの売り上げは減少傾向が続く。
グノシー2021年5月期第3四半期決算資料より