北朝鮮の金正恩総書記が「痩せた」との指摘に続いて、公の場、特にイベントでの集合写真の撮影を避けているとの見方も出てきた。北朝鮮は新型コロナウイルス感染者はいないとする主張を続けているが、正恩氏は党の会議で、新型コロナ対策で「重大事件」があったとも発言している。
これまでも取り沙汰されてきた健康問題に加えて、人混みを避けるなどして新型コロナへの警戒を強めている可能性もありそうだ。
平壌市民「総書記同志のやつれた姿を見ると、我々は最も胸が痛い」
正恩氏が痩せたことが広く知られるようになったのは、北朝鮮専門サイト「NKニュース」が21年6月8日付けで配信した記事がきっかけだ。記事では、6月4日の朝鮮労働党の会議を報じる朝鮮中央テレビの動画を見た識者から、正恩氏が痩せたと指摘する声が相次いだことを報じた上で、傍証として腕時計に着目した。正恩氏が時計をつけている左手首を拡大した写真を20年11月30日、21年3月5日、6月5日の3枚並べて比較し、
「腕時計は、細くなった手首に、以前よりもしっかりと(ベルトをきつく締めて)固定されているようだ」
と指摘した。
痩せた原因がダイエットによるものか、健康問題によるものなのかは不明だ。ただ、正恩氏が痩せた点は北朝鮮当局も意識しているようだ。6月25日に朝鮮中央テレビが放送した、正恩氏が鑑賞したコンサートの感想を市民にインタビューする番組では、出演した男性が
「総書記同志のやつれた姿を見ると、我々は最も胸が痛い。みんな『自然に涙が流れる』と言っている」
と発言している。正恩氏の健康状態は引き続き明らかではないものの、北朝鮮当局としては、正恩氏が何らかの心労のようなもので痩せた、つまり、正恩氏が痩せるほど国民のために尽力していることをPRしたいようだ。
5月6日最後に途絶えた「記念写真」動静
さらに、「NKニュース」は6月29日、正恩氏が「重要なイベントの出席者との写真撮影を欠席した」ことを指摘している。その理由を「新型コロナや、その変異株に感染するリスクを避けたいからではないか」とみている。5月6日に朝鮮人民軍の軍人家族芸術サークル公演の参加者と記念写真を撮ったのが、国営メディアが報じた最後の「記念写真」をめぐる正恩氏の動静だ。
先例に従えば、その後も記念写真が撮影されるはずのイベントが2つあったが、いずれも正恩氏の登場は確認されていない。ひとつが、「朝鮮職業総同盟」。第8回大会が6月25~26日にかけて行われたが、記念写真に関する記事は配信されていない。前回の第7回大会は16年10月25~26日にかけて行われ、国営メディアは10月30日に写真撮影について報じた。
もうひとつが、21年6月20日から21日にかけて開かれた「朝鮮社会主義女性同盟」の第7回大会。前回の第6回大会は16年11月12~13日にかけて開かれ、集合写真を国営メディアが配信したのは11月22日のことだった。
NKニュースは、正恩氏が集合写真の撮影のような「大人数のグループにはより慎重に対応」していることを指摘。新型コロナの感染を警戒している模様だ。
「北朝鮮は、国内で新型コロナが検出されたことはないとの主張を続けている。しかし、正恩氏は、大人数のグループにはより慎重に対応しており、正恩氏と、その警備チームは、北朝鮮国内で新型コロナにさらされるリスクが高まっていると考える理由があるのかもしれない。おそらく、北朝鮮の厳格な国境管理を完全には信頼していないためだろう」
国営メディアによると、正恩氏は6月29日に開かれた朝鮮労働党の会議の場で、新型コロナ対策をめぐり「党の重要決定の実行を怠ることによって、国家と人民の安全に大きな危機を醸成する重大事件を生じさせたことと、それによって招かれた重大な結果について指摘した」という。「重大事件」「重大な結果」の内容は明らかではないが、北朝鮮のコロナ対策に何らかの問題が生じているとみられる。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)