「嘘は見抜かれるような空気」
金冠堂は1926年に設立し、最初期のキンカンも同年に誕生した。95周年を迎える歴史ある企業が、主力のロングセラー商品をめぐり、なぜ若者向けに強くメッセージを出したのか。
6月28日の取材に答えた金冠堂の広告宣伝担当者によると、若年層をターゲットにした広告は18年から展開している。19年には渋谷センター街にアパレルブランドを彷彿とさせるポスター100枚を使用した「ポスタージャック」などを実施。広告から前述の「キンカン ノアール」が生まれたという。
近年、若年層をターゲットに広告を展開している理由について、担当者はこう明かした。
「毎年、シーズン前の4月とシーズン中の8月に全国2000人前後にアンケートを実施しています。調査の結果、メインのお客様、リピーターのお客様は年配の方が中心で、若い方の流入を得られていないことがわかりました。20代では『知っている』が減り、その中でもさらに『使ったことがない』という回答が多く『祖父母の家で見た』というご意見もいただきました。そこで、キンカンが虫さされ薬だと知ってもらう入口として3年前から若年層向けのPRを始めました」
今回、若者の街として原宿などではなく、渋谷を選んだのは「継続的に渋谷で広告を出していたこと、スクランブル交差点が有名なことや、ウェブで見た人でも(若者向けであることが)連想しやすい場所だと思い選びました」とのことだ。
しかし、今回の広告は過去3年のものよりストレートに「#若者に売れたい」という切実な本音を押し出している。その理由について、前述の担当者は「今年はコロナが続いている中で嘘は見抜かれるような空気感があり、本音や誠実さが大事だと感じました。『売れたい』という本音を出したことによって謙虚や誠実といった反応をもらえたと思います」と話した。
広告がネットで話題を呼んだのはメッセージだけではなく、ボトルに見立てた柱巻き広告も一因だろう。もともと「円柱」にこだわっていたものの「最近の交通広告はデジタル広告が多く、四角い柱が主流です。また20~30メートルのボリュームでメッセージとのインパクトを狙いたかったため、コストの面でも苦労しました」(前出担当者)と広告を打ち出す場所を探すのに苦労したという。
また、担当者は今回の大きく話題になっていることについて「大きな反響をいただけたこと、広告を好意的に受け止めていただけたこと、嬉しいです。広告の内容だけでなく、フォロワーの方が盛り上げる空気を作ってくれたこと、ほかの企業さまのツイッターでも反応いただけたおかげだと思います」と感謝を述べた。
キンカンの話題が盛り上がっているなか、同社のツイッターアカウント「KINKAN Noir」も28日、「Noir(ノアール)も若者に売れたいんです」と渋谷駅にボトルデザインの柱巻き広告を出したと報告した。通常のキンカンが明るい黄色を基調とし、日本語で品名などを書いているのに対し、ノアールは黒のボトルに白のアルファベットで「KINKAN」と書かれるなど、よりファッショナブルな見た目。巨大な柱巻き広告にしたことで、こうした見た目の違いも印象づけている格好だ。
ノアールが同じ広告を出したことについて、担当者は「ほかの企業さまに乗っていただけたので、社内でも乗ってみたという形で展開できました」と語った。