「道中こそが目的地」 2日がかりの「シェアサイクル旅」にネット騒然...その魅力は?投稿者に聞く

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   近年、都市部でよく見かけるようになったシェアサイクル。ちょっとした距離の移動に使用したり、あるいは「ウーバーイーツ」の配達員が乗っているのを目にしたこともあるだろう。

   そんなシェアサイクルを、一風変わった手法で乗りこなしたツイッターユーザーが話題を呼んでいる。「全国のポート(駐輪場)で返却可能」という仕組みを利用し、ほぼ丸2日がかりで千葉〜兵庫の長旅を行なったのだ。

   一見すると非効率にも思えるシェアサイクル旅行だが、その魅力はどこにあるのか。投稿者に話を聞いた。

  • ツイッターで話題「シェアサイクル旅」の魅力は?(画像は、ばか者@aul_52Iさん提供)
    ツイッターで話題「シェアサイクル旅」の魅力は?(画像は、ばか者@aul_52Iさん提供)
  • ツイッターで話題「シェアサイクル旅」の魅力は?(画像は、ばか者@aul_52Iさん提供)

「嘘でしょ...」「すごい人がいるもんだ」

「自転車を返却しました」

   2021年6月20日、あるツイッターユーザーの投稿が注目を集めた。添えられていたのは、2枚の画像。1枚目はシェアサイクルサービス「ハローサイクリング」の自転車をポートに返却した際の写真で、2枚目は自転車の利用期間と走行区間を伝えるスクリーンショットだった。

   近年は都市部を中心に、見かける機会が増えたシェアサイクル。赤い自転車の「ドコモバイクシェア」や白い自転車の「ハローサイクリング」が有名だ。自治体ごとにポートが設置されているケースが多く、基本的には展開するエリア内での「ちょっとした移動」の利用が想定されている。

   しかし、投稿者は違った。自転車は6月18日の15時12分にJR海浜幕張駅(千葉県)を発ち、20日8時44分に阪急西宮北口駅(兵庫県)へ到着。直線距離にして430kmを超える「大移動」だった。シェアサイクルのセオリーを覆す使い方に、「嘘でしょ...」「すごい人がいるもんだ」と驚きの声が集まった。

「千葉で借りて兵庫で返却」走行区間に驚きが広がった(@aul_52Iさん提供)
「千葉で借りて兵庫で返却」走行区間に驚きが広がった(@aul_52Iさん提供)
「これだけ多くの方に目に入るとは、想像だにしていませんでした」

   ツイートを投稿した「ばか者」(@aul_52I)さんは6月24日、J-CASTニュースの取材に対し、反響への思いを語った。

   首都圏在住で、普段からシェアサイクル旅行を趣味にしているというばか者さん。旅行に使うのは、首都圏を中心に全国約200市区町村で展開するハローサイクリングの自転車だ。全国各地のポートで相互に貸出・返却が可能なため、市区町村をまたいでの利用もできる。

   ばか者さんはこの仕組みを活用し、週末などにサイクリング旅行を実施。過去には茨城県土浦市にあるポートで自転車を借りたあと、日本で2番目に大きな湖・霞ヶ浦を経由し、歴史的な街並みで知られる千葉県の佐原(香取市)まで南下。佐原からは自転車と一緒に乗車できるサイクルトレインに乗り、千葉市まで移動。最後に同市内にあるポートへ返却する、という高度なルートで走ったこともあった。

四国経由、2つのフェリー乗り継ぎ関西へ

   今回、ばか者さんが西宮市を目指すきっかけになったのは、ハローサイクリングの公式ツイッターが昨年12月2日に投稿したツイートだった。内容は、人気ライトノベル「涼宮ハルヒ」シリーズとコラボしたデザインの自転車が、埼玉県所沢市のポートに設置されている、というもの。同ツイッターは、涼宮ハルヒシリーズのモデル地が西宮にあることを踏まえ、西宮のポートへ向けて「この自転車で聖地巡礼したいですね」と伝えた。

   これを見たばか者さんは「ハルヒ自転車を聖地・西宮に持っていったら何が起こるのか」「面白そう」と好奇心を抱く。そして、自転車の電動アシストのバッテリーや身体への負担を考慮し、2つのフェリーを乗り継ぐルートで西宮を目指すことになった。

   ばか者さんは18日に千葉のポートでハルヒ自転車を借り、旅をスタートさせた。千葉からは30kmほど西へ走行。その夜、東京港(東京都江東区)で「オーシャン東九フェリー」へ乗船し、翌19日昼には徳島港(徳島市)へ着いた。

   旅の醍醐味はここから。徳島港を出て北上し、険しい讃岐山脈を超え、香川県高松市に至る80kmのルートを自転車で走行する。徳島市郊外では、地元で評判のラーメン屋「やまきょう」に入店。甘辛い味付けが特徴の「徳島ラーメン」に舌鼓を打った。しっかり腹ごしらえをしたあと、深緑の讃岐山脈に突入。自転車の電動アシストが力を発揮し、峠道をグングン登った。徳島と香川の県境に位置する「大坂峠」の展望台からは、眼下に広がる瀬戸内海と、弓なりの海岸部に連なる引田(東かがわ市)の町を望んだ。

大坂峠から望んだ瀬戸内海と海岸沿いの街並み(@aul_52Iさん提供)
大坂峠から望んだ瀬戸内海と海岸沿いの街並み(@aul_52Iさん提供)

   この先、こんなところを走っていくのか――。そう思った矢先、ばか者さんをアクシデントが襲う。峠を下る途中、カーブでスリップして転倒。幸い身体は無事だったものの、左腕と左膝に傷を負った。「血だらけのまま走るはめになりました」

   なんとか峠を下り、讃岐平野を西に進むと、夜には「はなまるうどん」で讃岐うどんにありついた。本来ならここで一泊してもいいところだが、ばか者さんは先を急ぐ。高松東港から深夜1時発の「ジャンボフェリー」に乗り、翌20日5時15分に神戸・三宮へ。下船後、東へ自転車を進め、8時44分に目的地である西宮にたどり着いた。

「シェアサイクル旅は『道中』こそが目的地」

   ほぼ丸2日がかりで「ハルヒ自転車を西宮へ持っていく」という目的を達成したばか者さん。しかし「(ゴールした)達成感などはあまり湧かず、どのように写真を撮ればいいだろうかなんてことばかり考えてました」と振り返る。

   今回の旅でかかった費用は、シェアサイクルの利用料金とフェリー運賃を合わせて2万4200円。同じルートを電車と新幹線で乗り継げば、片道約1万5000円、4時間程度でアクセスできるのを考えると、決して効率的な移動手段とは言えない。

フェリーに積んだ自転車(@aul_52Iさん提供)
フェリーに積んだ自転車(@aul_52Iさん提供)

   時間もかかる。場合によってはお金もかかる。身体への負担も小さくない。それなのになぜ、シェアサイクル旅行に惹かれるのか。ばか者さんは、こう力説する。

「基本的にシェアサイクル旅は『道中』こそが目的地です。電車に乗っていては見過ごしてしまう何か、その土地の雰囲気、あるいは知り得なかった名所や名物に出くわすかもしれない。そういった思いがけない出会いを求めて、旅を行なっています」

   今回の旅では、徳島市内で立ち寄った「やまきょう」(ラーメン店)や大坂峠の展望台など、公共交通機関でアクセスするのが難しい場所もあった。「このようなルートを採用しなければ、訪れる機会はなかった」と、ばか者さんは振り返る。

ばか者さんが「やまきょう」で食べた徳島ラーメン。道中のグルメも、旅の醍醐味の一つだ(@aul_52Iさん提供)
ばか者さんが「やまきょう」で食べた徳島ラーメン。道中のグルメも、旅の醍醐味の一つだ(@aul_52Iさん提供)

   ばか者さんは今回、ポートのない徳島県を経由地に選んだが、ある程度ポートが点在する地域であれば、旅のハードルも高くないとする。「行った先でパッと借りて返すだけ。最悪諦めて途中で引き返したって問題ありません。一般人が気軽に楽しめる自転車旅、それがシェアサイクル旅なのだと思います」

   最後に、シェアサイクル旅の「オススメルート」を教えてくれた。

「静岡県静岡市〜藤枝市をまたぐ『宇津ノ谷峠』越えです。戦国時代から続く『とろろ汁』の名店・丁子屋(静岡市)や、峠にある煉瓦造りの『明治のトンネル』(静岡市〜藤枝市)、江戸時代の宿泊施設を利用した歴史資料館『大旅籠柏屋』(藤枝市)など見所がたくさんあります。峠越えですが、乗り通しても距離は30kmもないので、電動アシストのバッテリーが切れる不安はないでしょう」

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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