宮内庁の西村泰彦長官が2021年6月24日の定例会見で、東京五輪・パラリンピックに対する天皇陛下の受け止めについて「開催が感染拡大につながらないか、懸念されていると拝察している」と発言したことの波紋が国外にも広がっている。
西村氏は「拝察している」と、天皇陛下ご自身の発言ではないことを強調したが、海外メディアはダイレクトに天皇陛下の意向として受け止める向きもあり、西村氏の発言が「天皇が五輪開催に不信任票」「天皇の警告」などと報じられている。
政府は「長官本人の見解」と打ち消しに走るが...
海外メディアの多くは、共同通信を引用する形で西村氏の発言を伝えている。共同通信が伝えた発言の内容は次のとおり。
「陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変心配されている。国民に不安の声がある中で、開催が感染拡大につながらないか、懸念されていると拝察している」
「日々、陛下とお話ししている中で、私が肌感覚でそう感じている。陛下から直接そういうお言葉を聞いたことはない」
この発言が英語に翻訳されて伝えられた。「~懸念されていると拝察している」の部分は、「I suppose that (the emperor) is concerned that~」と訳されている。
菅義偉首相は、6月25日午前、西村氏の発言について「長官ご本人の見解を述べたと理解している」と説明。加藤勝信官房長官も同様の説明を繰り返しており、天皇陛下が五輪開催に懸念を示したとの見方を打ち消したい考えだ。
「天皇の警告」でも「主催者を心変わりさせるには遅すぎた」
だが、発言が天皇陛下の意向であることを前提にした報道も相次いでいる。例えば韓国の中央日報は、
「天皇が新型コロナの状況と関連して五輪開催を心配していることを、西村長官が用心深く間接話法で伝えている」
とみる。米ワシントン・ポストは、発言を「東京五輪、天皇から重要な不信任票」の見出しで伝え、背景を
「天皇が、このように重要かつ論争があるテーマで発言することはまれで、その意見には重みがある。天皇の警告で、政府とIOCは恥をかくことになるが、主催者を心変わりさせるには遅すぎた」
などと解説。長官発言が大会中止につながることには否定的だ。
ただ、ここまで踏み込んだ論評は珍しく、国外報道の多くが
「天皇は政治的権力を持たないが、日本では象徴として広く尊敬されている。公の場で発言することはまれだ」(ロイター通信)
といった背景を解説する内容だ。そんな中でも、
「政治に介入することができない天皇が、宮内庁を通じて国内の懸案に対する自分の意見を言うのは極めて異例だ」(朝鮮日報)
などとして、驚きをもって発言を報じるメディアもある。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)