感染症予測を警鐘として使った
いずれにしても、分科会は、感染症対策の議論の前提とすべき感染者予測において、政府関係者からの信頼を得ていたとは言いがたかった。
それは、感染症予測を将来の感染者数を正確に当てるというより、警鐘として使ったからだ。
筆者の予測は、かならず諸前提に幅を持たせて、予測値の上限と下限を明示している。ピッタリ当てることはできないが、それでも現実が上限と下限の間にくるようにしている。今回の新型コロナでも、これまでの波のピークはすべてほぼ正確に当てた。しかし、分科会では、何もしないという極端な前提の下で、死者42万人という極端な予測をした。これはショッキングな数字なので、対策を急がせた役目を果たしたかもしれないが、事後的な説明もないのでは政府内における信頼を得られなかっただろう。
今回分科会の尾身茂会長ら専門家の有志による提言においても、筆者からみると、若干極端な想定により感染者の急増を前提としているように思える。
政治や実務の世界で、専門家が求められているのは、将来予測と処方箋である。将来予測において信頼できないと、その処方箋も聞いてもらえなくなってしまう。
もし、これまで分科会が信頼を得ていれば、いろいろと諮問されただろう。予測を正しく行うのは、権威でもなんでもない。いくら無名でも正しく予測できていれば、政治は必ず意見を求めてくるものだ。その意味で、分科会は実績が足りなかったのだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。