ジャズのビッグバンド「シャープス&フラッツ」のリーダーだった原信夫さん(本名・塚原信夫さん)が2021年6月21日に亡くなった。94歳だった。
原さんの最高の思い出は2009年9月、明仁天皇(現上皇)の即位20年、ご成婚50周年を記念して両陛下、皇族の前で演奏を披露した記憶だった。
「真赤な太陽」の作曲でも知られる
ある日、原さんの事務所に宮内庁から電話があった。打診されたのが両陛下の前での特別演奏だった。原さんはその前年2008年、81歳になったのを機会に、ファイナルコンサートを最後にシャープス&フラッツを解散していた。しかし、両陛下のご依頼を断るわけにはいかない。
再編成して臨んだのが御前演奏だった。演奏が終わって両陛下が退出される。メンバーは一列に並んでお送りした。ところが両陛下はくるりと回って並んだメンバーの前に進まれた。そして一人一人に話しかけられた。美智子さまはトランペット奏者の前では「あそこのパートのソロがよかったですね」などと、演奏の細かいところまで話されたので、メンバーは驚いて直立不動。
これを見ていた原さんの長女、額賀真理子さんは「両陛下が若いころにお二人でダンスを踊られた曲をぜひ聞きたいということだったようです」と話している。当時はこのエピソードは報道されなかった。
原さんはジャズだけでなく、美空ひばりの大ヒット曲「真赤な太陽」の作曲などでも知られる。生演奏が少なくなり、フルバンドは少なくなったが、原さんが残した貴重な遺産がある。全国高校の吹奏楽部が演奏するジャズの楽譜だ。原さんのバンドが作った各パートの楽譜を貸してほしいという依頼が今も事務所に来るという。
(蜷川真夫)