「テレビCMを観て驚いているのは、僕だけでしょうか?」「動画編集が一部の限られた人のスキルではなくなってるんだなぁ......としみじみ」
ソフトウェア大手・米アドビ日本法人が、動画編集ソフト「Premiere Pro(プレミアプロ)」の初となるテレビCMを出稿した。
「プレミア」は映像のプロフェッショナル向けの製品だけに、マス(大衆)に向けての訴求に驚いた人は少なくなかったようだ。SNSでは上記のような反応が相次いでいる。
同社はJ-CASTニュースの取材に「動画編集のニーズが広がってきている」と話す。
エヴァ映画でも使われたソフト
アドビは「できちゃう、思い通りの動画」をキーワードに、テレビCMを2021年5月中旬から放送した。俳優で人気ユーチューバーの顔も持つ仲里依紗さん(31)を起用し、プレミアを通じた動画編集の魅力を訴求した。
プレミアは1991年から販売し、「プロ向け」のソフトとして知られる。テレビ番組やCMなど映像編集の現場で重宝され、21年3月公開の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でも使われた。
利用者層が明確なため、同製品の宣伝はターゲティングが容易なデジタル広告が中心だった。テレビCMは今回が初となる。
アドビマーケティング本部常務執行役員/シニアディレクターの里村明洋さんは取材に、出稿の経緯を次のように話す。
「昨今、動画編集の分野でニーズが広がってきていると感じています。インターネットの通信スピードが遅かった時代はネット上で動画をやりとりするのが難しかったですが、昨年から5G(高速通信規格)が始まるなど、近年は動画の投稿量が飛躍的に増加しています。
それに伴って、ネットへの投稿のために動画を編集する人も増えてきています。ユーチューブやニコニコ動画を筆頭に、ソーシャルメディア向けに作られる方が増えており、我々のターゲットもプロの方だけでなくセミプロの方にも広げなくてはいけないとの意識がありました。
そうした方々の接触しているメディアを調べたところ、ネットだけでなくテレビも観ていることが調査でわかり、テレビCMを出稿しました」
過去の成功体験がカギに
CMは5月16日の週から大阪で試験放映し、翌週から関東に広げた。6月4日でいったん終了し、現在は同素材を使ったデジタル広告を展開している。通常のキャンペーンよりも大幅に予算を割き、「社内でも『これだけ流すんだ』と言われるくらい反応が良かったです」。
具体的なターゲット像は、ユーチューブやインスタグラム、フェイスブック、ラインなどで頻繁に動画をシェアしていて、「無料の動画編集ソフトだと少しこだわった映像が作れない、もう少し自分なりの動画を作りたい」とのニーズを持つ人だ。アドビ社では「ソーシャルビデオクリエーター(SVC)」と呼んでいるという。
「ピアノを習って一曲弾けるようになると、それを誰かに聞いてほしいと思うのではないでしょうか。動画でも、作品を作ったら誰かに見てもらいたいとの欲求が生まれ、家族や友達にネット上で共有して広がっていくという行動は見て取れます」(里村さん)
それを実感したのが、19年に写真編集アプリ「Lightroom(ライトルーム)」の電車広告を出稿した際だった。ユーザーの獲得に大きくつながり、SNSの投稿を目的とした「編集ニーズ」が高いことがわかった。ネット検索などのデータから、静止画だけでなく動画にも同様の需要があると気づき、マスへの訴求を検討し始めた。
ユーザーの拡大はアドビ社の業績からも読み取れる。同社の20年度決算は売上高が128億7000万ドル(前年比15%増)と過去最高を記録し、プレミアも大きく貢献した。里村さんは「昨年は緊急事態宣言により家で過ごす方が増え、動画編集を始めた方が多かったようです」と分析する。
新機能の実装も予定
コロナ禍での"特需"以上に、CMは効果があったという。
「認知」と「売り上げ」を広告効果を測る指標とし、いずれも見込みを超えた。特に前者の効果は大きかった。「認知率はサーベイ(調査)でとると、結果がタイミングで変わるため、ブランドキーワードでの検索数をKPI(重要評価指標)としました。興味を持ってくれて、行動まで起こしてくれたかは重要でいて難しいのですが、想定を大きく超えました」
今後の展望については、次のように話す。
「弊社はクリエイティブ全体の市場を広げていくとの使命があります。3D やAR(各超現実)、VR(仮想現実)など、より動画編集をこだわれる製品、機能を展開していきたいです。直近では、自動でテロップがつけられるプレミアの新機能を公開予定です」
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)