「既定路線の人生を歩むのは面白くない」
各家庭や事業所を一軒一軒まわる「飛び込み営業」を重ねる日々。あるとき、転機が訪れる。
「ある営業先を訪れたとき、外を見たら(野球の)アップシューズが干してありました。営業トークの一環で『野球をやられているんですか?』と聞いたら『クラブチームで野球をやっているんだよ』と。その方は、クラブチームの監督さんでした」
監督との思わぬ出会いもあり、19年秋に社会人クラブチーム「いわき菊田クラブ」に入部。仕事とクラブの「二足のわらじ」で活動をはじめた。するとチームは20年に開催された福島県の社会人野球カップ戦「JABA毎日新聞社杯」で優勝。薄井選手は決勝戦で野手としてランニングホームランを放つなど、MVPを獲得した。
再び沸き上がってきた、野球への思い。薄井選手は同年12月、出身地・茨城をホームとするアストロプラネッツのトライアウトを受験。野手のみならず、クラブ在籍中に編み出したオーバー&アンダー投法で投手としてもアピールし、練習生として今年1月に入団した。
プロ入団に合わせ、証券会社も辞めた。「仕事が嫌になったわけではありませんでした。ただ、既定路線の人生を歩むのは面白くないな、とも思っていました。今できることを、チャレンジしたい。覚悟を決めました」
公式戦に出場できない「練習生」だった薄井投手だが、5月20日には選手契約を勝ち取った。以降、リーグ戦やNPB・読売ジャイアンツ三軍との交流戦に登板し、いまもアピールを続けている。「アンダースローを中心に投げると、オーバースローのフォームを崩してしまうという難しさもある。スタイルをはめ込むための反復練習は、もっともっと必要だなと感じています」。
今後の目標を「自分の投球スタイルを極めて、NPBなど上の舞台でも勝負できる投手になっていきたい」と語る薄井投手。茨城の「二刀流」から、目が離せない。