2021年6月16日に公開された河北新報(宮城県仙台市)の記事がSNS上を中心に注目を集めている。地元・宮城県の高校生が、読書体験記の全国コンクールで最高賞を受賞したことを報じた記事だ。
受賞したのは賀井暁月(かいあかつき)さん。これはペンネームだ。自身の体験した家庭内での暴力を、米国人作家H・P・ラヴクラフトが小説で描き出した恐怖を通して考察を深める。
こうした背景を考慮し、河北新報は賀井さんの本名や顔写真を用いずに報じた。写真欄には、賀井さんの友人が描いた似顔絵を掲載している。この報道方法がSNS上で「斬新な発想」「受賞作も似顔絵掲載のアイデアもレベル高い!」などと注目を集め、話題となった。
J-CASTニュースは2021年6月18日、河北新報社に似顔絵を載せた経緯などを取材した。
「私の家庭には暴力があった」
賀井さんの読書体験記のタイトルは「世界にゆさぶりをかけるもの」。「私の家庭には暴力があった」という衝撃的な書き出しから始まる。
題材としたのは「ラヴクラフト全集」で、描かれた世界観は「クトゥルフ神話」として知られている。賀井さんは、この世界の「恐怖」に魅了された理由を考察する。そして、ラヴクラフトが他者と関わる言葉と強い意志を与えてくれたのだと振り返っている。
同作は、2020年に開催された第40回全国高校生読書体験記コンクール(一ツ橋文芸教育振興会主催)で、最高賞の文部科学大臣賞に輝いた。選考委員で歌人の穂村弘さんは同作を「読書体験、さらには文学というものの根源に迫るような凄みを感じた」と評する。
この件について河北新報は2021年6月16日、賀井さんへの取材も行ったうえで「暴力と恐怖の本質を考察 宮城の賀井さん、読書体験記で最高賞に」と報じた。取材に応じた河北新報社の担当者はこう話す。
「担当記者は、この作文に強いインパクトを受け、どんな形であってもこの作文を報じ、多くの人に読んでもらいたかったそうです。
しかし今回の取材は非常に難航しました。様々なハードルがありましたし、取材には多くの時間を要しました」
河北新報は宮城県を拠点とする地元密着な新聞だ。詳細に報じれば、賀井さんが特定されてしまう恐れもある。記事化にあたっては細心の注意を払いつつ、作文の魅力を伝えられるよう取り組んだとのことだ。