今夏の東京五輪・パラリンピック開幕が迫っている。このまま予定通り大会が開催されるか否かは現時点で不確かだが、このコロナ禍で大会が開催された場合、出場する各国代表選手にどのような影響が及ぶのか。日本代表にとって開催国の「地の利」は追い風となるのか。過去の大会を振り返りつつ分析してみた。
64年東京五輪金メダルは前回大会の4倍
2000年以降、大会を開催した国のメダル総数が、前回大会を下回ったケースはない。00年シドニー五輪から16年リオデジャネイロ五輪まで5大会が開催され、全ての開催国が前回大会のメダル総数を上回っており、自国開催が追い風になっていることは間違いないだろう。
顕著な例でいえば、08年北京五輪が挙げられる。前大会の04年アテネ五輪で中国が獲得したメダルは計63個。内訳は金メダル32個、銀メダル17個、銅メダル14個だった。その4年後、自国で開催された北京五輪でのメダル総数は100個に上り、金メダルは16個増えて48個を獲得している。
1964年に開催された東京五輪を振り返ってみると、日本代表は計29個のメダルを獲得した。前回大会の60年ローマ五輪のメダル総数は18個で、11個のメダルを上積みした。
金メダルに限っていえば、ローマ五輪の4個に対して東京五輪は4倍の16個を獲得。これは日本代表にとって04年アテネ五輪と並ぶ過去最多の金メダル数である。64年東京五輪では日本のお家芸といわれた体操をはじめとし、レスリング、バレーボール、ボクシング、ウエイトリフティング、柔道で金メダルを獲得した。
JOC理事の山口氏「アンフェア」指摘
今大会、日本代表が目標とする金メダルの数は史上最多となる30個だ。前回大会リオデジャネイロ五輪の金メダルは12個で、この2倍強を目標としている。日本オリンピック委員会(JOC)が18年6月に目標メダル数を設定した当時、目標達成は厳しいとの見方もあった。ところが、このコロナ禍で東京五輪を取り巻く状況が一変。日本代表の「優位性」が浮き彫りになってきた。
柔道の五輪メダリストでJOC理事の山口香氏は、米ニューズウィーク日本版のインタビュー(6月8日WEB配信)で、様々な制限の中での調整を強いられる海外代表選手と日本代表を比較した上で、「アンフェア(不公平)」を感じる人も出てくると指摘している。
山口氏は柔道を例に挙げ、練習パートナーが来日できないことが大きなハンデになると指摘。このような「アンフェア」な状況は柔道だけではなくその他の競技でもみられ、一方で日本代表は「通常の練習や準備をしてから本番を迎えることが出来る」としている。
実際、柔道は試合直前まで練習パートナーを必要とし、減量を強いられる競技のため最後の調整が試合の行方を大きく左右する。体重制限のあるレスリングやボクシングなども同様で、海外の代表選手が「アンフェア」と感じるケースが出てくるかもしれない。
札幌ハーフに男女代表4選手が出場
今年5月にはマラソンの日本代表選手が五輪で使用されるコースを「試走」している。
五輪のテスト大会として「北海道・札幌マラソンフェスティバル2021」が5月5日に札幌市内で行われ、五輪で使われるコースとなるハーフマラソンの部に女子マラソン代表の3選手と男子マラソン代表の服部勇馬選手が出場。レース本番を約3カ月後に控え、出場した選手それぞれ「収穫」を得たようだった。
また、海外の代表選考会の動きも気になるところだ。
オーストラリア野球連盟は6月9日、東京五輪最終予選(22日~メキシコ)の辞退を発表した。新型コロナウイルスへの懸念を理由とした。野球ではすでに台湾が新型コロナウイルスの影響で代表の派遣を断念しており、今後も予断を許さない状況にある。
陸上はアフリカ選手権が中止に
一方、陸上ではアフリカ選手権が中止に追いやられた。東京五輪の代表選考会でもある同選手権は、6月23日からナイジェリアで開催される予定だったが、ナイジェリア政府がコロナ禍を理由に開催を許可しなかった。代替大会は予定されておらず、代表選考などの今後に関しては不透明な状況にあるという。
このように予選の段階で五輪出場を断念せざるを得ない国や、代表選考会の存在すら危うい国の選手が存在する。本来ならば出場できるはずの選手が不参加となるケースも想定される。自国開催の「利」とは別に、これらの外因が必然的に日本代表のアドバンテージになるだろう。
コロナ禍の大会開催で果たして「平等」を保つことが出来るのか。そして「アスリートファースト」の運営は可能なのか。大会組織委員会の手腕が問われる。