【連載】MUTEKI DEAD SNAKEのBUCHIAGARU!! music
「恋愛ソングのカリスマ」と呼ばれるアーティスト・西野カナさん(32)。
大ヒット曲「会いたくて 会いたくて」に象徴されるように、リアルな心情をまっすぐに表現した歌詞がリスナーの共感を呼んだ。とくに10~20代の女性からの支持は圧倒的で、その楽曲だけでなく、西野さんのメイクやファッションも注目の的になった。
そんな西野カナさんの全楽曲が、2021年6月1日にサブスクリプション解禁された。これまではシングル曲など一部のみが配信されていたが、全181曲が各配信サービスで楽しめるようになったのだ。
サブスク解禁で再び注目を集める西野さんの楽曲は、なぜここまでの若者たちの支持を集めたのだろうか。その理由を、音楽作家のMUTEKI DEAD SNAKE氏が解説する。
意外と戦略的?練られた歌詞に驚き
6月1日に全曲をサブスクリプションで解禁した西野カナさんは、「着うた」世代の僕にとっては非常に思い出深いアーティストで、学生時代は多くの同級生が西野カナさんの楽曲を着信音に設定していた記憶があります。
当時の自分はあまりJ-POPを聴いていなかったこともあり、そこまで西野カナさんの楽曲を聴き込んではいなかったのですが、大人になり、音楽の仕事をするようになってから彼女がいかに凄いアーティストかということに気付かされました。
◆プロデューサー的視点の歌詞にBUCHIAGARU!!
西野カナさんの楽曲はもちろんメロディやアレンジも素晴らしいのですが、ここまでの人気を誇るようになった一番のカギは、西野カナさん本人によって書かれた歌詞だと思います。
改めて西野カナさんの楽曲の歌詞を読んでみると、どのような層をターゲットにして、どのような場面で使われる曲なのか、ということがはっきりと汲み取れるような楽曲が多いですよね。
代表曲を例に具体的に述べますと、「トリセツ」という楽曲は、取扱説明書を女性バージョンで作成する、というそのコンセプト自体がまず素晴らしすぎるのですが、若い女性から、年齢を重ねられた女性まで、誰もがいい塩梅で自分のストーリーとして解釈できるような言葉を選んで書かれており、すべての年代の女性にアプローチしようとしていることがわかります。
そして、「永久保証の私だから」というサビの最後のフレーズによって(曲の中で最も印象的なサビの最後にあるのがまた憎いですね)、結婚式で使われることを想定して作られているのだなということも伺えます。
また、「Have a nice day」という楽曲では、Bメロの歌詞から主人公は独身であること、言葉選びから若い女性であることが推察され、そのことから、ターゲットとしているリスナーも10代から20代の女性であることがわかります。
またAメロでは、学校か会社かは限定しないように言葉を選びながら朝の支度を、サビの「行ってきます」というフレーズで家を出るということを描写し、最後はタイトルにもある「Have a nice day」というポジティブなフレーズで締めくくることにより、通学、及び通勤時に聴く曲として制作されていることが伺えます。
ここまでしっかりとコンセプトを考えて、自分で歌詞としてアウトプットし、人気や売上といった形で結果を出す――そこまでできるアーティストは、ほとんどいないのではないでしょうか。
自分の気持ちを歌詞で表現するアーティストも素晴らしいのですが、西野カナさんのように、プロデューサー的な視点を持って歌詞を書かれるアーティストには、作家として学ぶものが沢山あるなと思います。
歌詞が注目されがちも...実は高い歌唱力
◆圧倒的な歌唱力にBUCHIAGARU!!
そして西野カナさんって、シンプルにめちゃくちゃ歌が上手いんですよね!
歌詞のコンセプトの素晴らしさや話題性が先行しすぎて、歌唱力が注目されることが少なかったように思うのですが、テレビで西野カナさんの歌を聴いた時にそのスキルの高さに驚きました。
まず、声のレンジがとても広く、特に高音が非常に出るので、それによって歌える曲の幅が広がっています。
僕が作家として仕事をしている中で女性のキーとして指定されることが多い音域よりもかなり高く、普通なら裏声で歌うような高さの音を西野カナさんは地声で歌ってしまうので、彼女の楽曲は、女性でも高くて歌えない、という方が多くいらっしゃるのではないかと思います。
また、歌声は基本的に高い音になるにつれて細くなっていくものなのですが、西野カナさんにはあまりそのようなことがなく、どの音域を歌っても一定の太さがあり楽々歌っているように聴こえるため、音を取った時に「この曲こんなに高かったの!?」となることが非常に多いです。
そして、ピッチの安定感も抜群なんですよね!
現在は音程補正の技術が進歩しているため、CD音源を聴いているだけでは本当に正しいピッチで歌える能力があるのか、ということがあまりわからないのですが、生放送やライブを見ると、難しい曲もほとんどピッチを外すことなく歌っていますし、なおかつ表現力も抜群です。
こうして改めて考えてみますと、作詞能力と歌唱力を高いレベルで兼ね備えた西野カナさんという唯一無二のアーティストが一つの時代を作り上げたのもある意味当然だなと思いますし、このサブスクリプション解禁を機会に、改めて聴き直していきたいなと思いました。
ちなみに個人的には「もしも運命の人がいるのなら」が大好きです!