「他人と話せない」コロナ禍、閉塞感で応募増える
ただ、今はコロナ禍だ。リモートワークの普及で「自宅での一人仕事、一人作業」が定着しつつあり、それを歓迎する人も少なくないだろう。なぜ「対面」の空間づくりにこだわったのか。菊池さんは、次のように思いを語る。
「コロナ禍だからこそ、というのもあります。確かに漫画家は一人で作業するものではあります。ただ、コロナ禍以降は『他人と話せない』といった閉塞(へいそく)感から、単に一人暮らしをするより、同じように漫画の道を志す人が集まる空間で暮らしたい、という方の応募が(トキワ荘プロジェクトでは)増えています」
1度目の緊急事態宣言が出ていた20年5月には、「週刊少年ジャンプ」(集英社)が一時休刊。「ゴルゴ13」(さいとう・たかを)が「ビッグコミック」(小学館)での新作掲載を見合わせた。業界の動きが止まったことで、漫画家を目指す人々のキャリアプランにも影響が生じたという。「業界の成長が止まるような状況を、継続させたくなかった。プロを目指すみなさんの成長に寄与するため、住む場所自体をお互いが切磋琢磨できる場にしたいと思っていました」。
コロナ後には地域交流などを通じ、居住者の作家性を広げる活動をしていきたいと語る菊池さん。「多くの人に感動を与えたり、人の心を動かしたりする作家を多摩トキワソウ団地から輩出できたら」と思いを口にした。