マンガ家としての「独り立ち」支援も
シェアハウス名にもある「トキワソウ」という名前。これはかつて東京・豊島区にあったアパート「トキワ荘」(1952~1982)に由来する。1953年に手塚治虫が居住したのを皮切りに、若手漫画家たちが続々と入居。お互いが切磋琢磨する中で、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など、のちのスター漫画家たちが巣立っていった。
「もともとトキワ荘は(手塚治虫さんのような)大先生がいて、それに師事する弟子たちがどんどん入ってくるという構造だった。トキワ荘プロジェクトでも、漫画家志望でシェアハウスに入居した人が実際に漫画家デビューを果たして、ほかの居住者にアシスタントをお願いする、という動きが自然発生的に起こっている。この点は、昔のトキワ荘を彷彿(ほうふつ)とさせるなと思います。多摩トキワソウ団地も、やがてそうなってくれるんじゃないかな、と期待しています」(菊池さん)
ただ、シェアハウスに入居したからといって、すぐ有名漫画家になるのは現実的に難しい。そこでNEWVERYが力を入れているのが、居住者の「独り立ち」支援だ。具体的には、漫画制作の研修を通じてスキルアップにつなげたり、企業紹介などのマンガ制作事業を委託したりすることで、「漫画で食べていく」術を身に着けてもらおう、というもの。
菊池さんは「雑誌で連載を取るのは狭き門ですが、漫画家さんの活躍するフィールド自体は広がってきている」と話す。思い込みやこだわりにとらわれず、どのようなキャリアプランを描いていくか。多摩トキワソウ団地には、漫画家としての生き方を見つめる機会も設けられている。