曲と映像を一体でコンテンツ化
YOASOBIは「夜に駆ける」に限らず、物語を音楽にするユニットである。原作となる小説があり、MVではそのストーリーをイメージしたアニメ映像が流される。作曲担当のAyaseさんがボカロPだったことが示すようにネットカルチャーとの親和性も高い。
ガリバーさんはYOASOBIについて「音楽ジャンルで括るというより、物語と楽曲の関連性で語られるべき関係性かなと思っております」と考え、「ごめんねFingers crossed」は曲そのものよりも、楽曲を背後のストーリーと一体で消費するという文脈を取り入れようとしたのでは、と推測する。
「今回、乃木坂としては珍しくMVの公開前にストーリー特設サイトが公開されました。物語があり、そこに様々なネット民が音楽や歌詞や踊りをつけて世界観を広げていく...それを狙ったようなかなり細かいキャラ設定が見受けられます」(ガリバーさん)
通常、シングル曲のリリース時はショートバージョンのMVのみが事前に公開されるのが恒例だったが、今回はロングバージョンでかつ、MVの中の配役や人物の背景まで詳細に特設サイトで公開されている。
カーレースを繰り広げるのは遠藤さくらさん・与田祐希さん・賀喜遥香さんと山下美月さん・齋藤飛鳥さん・生田絵梨花さんの2チームで、それぞれのメンバー同士に因縁があり、さらに彼女たちの友人やサポートする整備士(これらも乃木坂のメンバーが演じる)が登場、彼女たちにもサイドストーリーがある、といった具合だ。楽曲が持つ都会的センスがMVで強化されてファンに伝わっているかのよう。
映像や、グループそのものにもストーリー性を込めるという、ボーカロイド文化とも近接するプロモーションを展開してきたアイドルグループにはsora tob sakana(20年解散)やMaison book girl(21年5月活動終了)があった。いずれも現在は活動終了しているが、楽曲と映像やグループカラーを一体としてコンテンツ化する手法自体はアイドルグループでもあり得る。乃木坂46が「寄せてきた」としても不自然ではない。