党首討論、菅首相も反撃連発 「ワクチン遅れは野党のせい」は本当か

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   2021年6月9日に約2年ぶりに開かれた党首討論では、菅義偉首相が野党の問いかけに直接答えなかったり、聞かれもしない1964年の東京五輪の思い出を延々と語ったりするなど、必ずしも議論がかみ合う場面は多くなかった。

   ただ、首相が野党の側に質問できるのも党首討論の特徴。ワクチン接種が遅れた理由や、私権制限のあり方などについて、菅氏が野党に対して攻撃を試みる場面もあった。

  • 2年ぶりに行われた党首討論。議論が編み合わない場面も多かった(写真は参院インターネット中継から)
    2年ぶりに行われた党首討論。議論が編み合わない場面も多かった(写真は参院インターネット中継から)
  • 2年ぶりに行われた党首討論。議論が編み合わない場面も多かった(写真は参院インターネット中継から)

緊急事態宣言解除「新規感染者が50人程度になるまでは我慢」と訴える枝野氏に...

   枝野氏は冒頭、緊急事態宣言を解除する目安について、リバウンド(感染再拡大)を避ける観点から

「東京で1日あたりの新規感染者が50人程度になるまでは、苦しくても我慢しなければならない」

と主張し、政府側の認識をただした。これに対して菅氏は、ロックダウンのような強い措置を行った国々でも収束が難しかったことを指摘した上で、これらの国々が

「ワクチンを接種することによって、今大きな成果を上げていることが事実」

だとして、

「政府としては何といってもワクチンの接種に全力を挙げて取り組んでいきたい」

と述べた。

   緊急事態宣言の解除のメドが示されることはなく、やり取りはかみ合わなかったわけだが、続けて菅氏は次のように述べた。ワクチン接種の遅れは野党に原因の一端があるとして非難する内容だ。

「日本は国内治験ということで、世界から見れば3か月遅れている。これは、野党の皆さんからも強い要望があった。そういう中で国内治験をやったということで、3か月遅れているわけですけれども...」

   菅氏の念頭にあるとみられるのが、新型コロナワクチンの接種費用を無料とすることなどが柱の改正予防接種法だ。20年12月に全会一致で可決・成立したが、付帯決議には次の文言が盛り込まれた。野党側の要求を付帯決議に取り込むことで、全会一致に持ち込むことは少なくない。

「新しい技術を活用した新型コロナウイルスワクチンの審査に当たっては、その使用実績が乏しく、安全性及び有効性等についての情報量に制約があることから、国内外の治験を踏まえ、慎重に行うこと」

海外の治験データだけで承認するのは「今回のワクチン承認にはそぐわない」

   国内でも治験が行われた根拠のひとつが、この付帯決議だ。そこに至るまでは、国外での治験のみでワクチンを認可することに反対する野党からの声があった。

   例えば20年11月10日の参院本会議では、医師の資格を持つ立憲民主党の中島克仁参院議員が、

「新規性の高いワクチンを国民に提供するに当たり、日本人における有効性、安全性を十分に確認しないまま、海外の臨床試験データのみをもって承認を行う特例承認は、今回のワクチン承認にはそぐわない」

などとして、国内でも治験を行うように求めた。

   11月18日の衆院厚労委員会では、厚労省の鎌田光明・医薬・生活衛生局長が

「国内での検証試験データがなくとも、追加的な試験で人種差の検討も含めて有効性、安全性を確認することが可能」

などと説明。やはり医師の資格を持つ立憲・阿部知子衆院議員が

「そこが極めて怪しいところ。『国内でのしっかりした治験がなくても』と言ってしまえば、やはり人種差を見ていない。だって、なぜこのコロナはこんなに発生率、重症化も含めて、違うのか。そこを真面目に考えたことはあるのか」

として、国内の治験を省略する方針を非難した。

   治験の問題では、菅氏は短く触れただけで、枝野氏に答弁を求めたわけでもなかった。そのこともあって、特に枝野氏は治験をめぐる論点には反応せず、東京五輪・パラリンピックの議論に移った。

「私権制限強化に非常に慎重」なのに「どうやって強制的な検査を受けてもらうのか」

   立憲は、検査を拡大して感染を封じ込める「ゼロコロナ」戦略を提唱している。菅氏は、この政策に対する批判も展開した。菅氏は、

「御党では(新型コロナ)特措法の私権制限強化に非常に慎重な立場だった。国民の皆さんにどうやって検査をしてもらうのか、強制的な検査を受けてもらうのか」

として政策の実効性を疑問視したのに続いて、立憲がモデルケースとして挙げるオーストラリア、ニュージーランド、台湾については

「罰金や懲役による強い私権制限を行っているところだ」

と指摘。特にオーストラリアは日本より人口密度が低く、直接日本に当てはめることは不適切だと主張した。

   こういった批判に対して、枝野氏は

「検査の対象は、場合によっては政令でも拡大できる話」
「私たちは別に私権制限には否定的ではない。ただ、きちっとした補償がなければ、私権制限されて首をつらなければならない、そんな状況に国民を追い込んではいけない」

などと反論した。

   五輪をめぐる議論では、菅氏は1964年の大会の思い出を約3分間にわたって披露し、

「こうした素晴らしい大会をぜひ、今の子どもや若者が見て、希望や勇気を伝えたい」

と主張した。30分の持ち時間の1割を「思い出話」に費やされた枝野氏は、

「五輪を開催して命と暮らしを守れるのかどうか注目されている。総理の後段のお話は。ここにはふさわしくないお話だったのではないかと言わざるを得ない」

と憤った。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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