首相官邸は2021年6月8日、新型コロナウイルスワクチンの医療従事者と高齢者向け接種の累計が、7日時点で1834万8184回となり、前日比で109万3504回増えたと発表した。なお、この増加分に関し、接種記録を後日まとめて入力する自治体もあり、公表日以前の接種回数も含まれているので、1日100万回ペースかどうかは、もう少しデータを集める必要がある。
もっとも、かなりのペースでワクチン接種が進んでいることは確かだ。
ワクチン接種に残された課題は「成果」だった
これまで、民間予測では7月末までに高齢者接種完了はできないとされてきた。あるテレビコメンテーターは、菅義偉首相が目標とした1日100万人は、7月末までに目標達成するために、逆算した無責任な話と解説していた。
どうしようもない低レベルの解説で驚いたが、現実は以下のとおりだ。
ワクチン接種については、これまで種々の準備がなされてきたが、そのための予算手当は、昨年5月の2次補正で1300億円計上されている。
筆者の記憶によれば、そのときの予算積算では、全国に1万箇所の冷凍貯蔵施設を作ることになっていた。ファイザー社製ワクチンでは、マイナス70度の冷凍施設が必要だからだ。とにかく、この冷凍貯蔵施設を全国に作らないとワクチン接種はできない。さらにそこからのコールドチェーン(低温物流)を確立することが必要なので、そのために予算がいるのだ。冷凍貯蔵施設を1万箇所作れば、1日100万人はそれほど無理のない数字になる。1冷凍貯蔵施設あたり、1日100人打てばいいが、これは3~4時間で達成できるからだ。
そうした昨年5月の補正予算時の議論をベースとして、海外からのワクチン調達、国内接種での打ち手の問題などが実現のネックになり得るので、本コラムでこれまで書いてきた。これまでのところ、予算の用意、実際の海外からのワクチン調達、国内での打ち手問題それぞれは解決してきたので、残されたのは成果のみであるが、冒頭に述べたようにまず順調である。
7月末までの高齢者接種完了は、概ね達成できるだろう
世界の国とも比較してみよう。対象はG7諸国だ。ワクチン接種回数の人口比でみると、6月8日時点で、日本は15.32%だ。他のG7諸国では、1%から15%までに要した日数は45~78日であるが、日本は63日とまずまずだった。政府が目標にしている7月末までの高齢者接種完了とは、ワクチン接種回数の人口比ではおおよそ60%である。
他のG7諸国では、15%から60%に要した日数は58~71日であり、完璧とはいかないかもしれないが概ね達成できるだろう。少なくとも、高齢者で希望している人へのワクチン接種はできるだろうし、高齢者以外の人でもある程度のワクチン接種ができているだろう。
7月末を考えると、これまでとは別の風景になる。前回の本コラムに書いたが、ワクチン接種で新型コロナ感染は劇的に抑制できる。行動制限は、ワクチン接種がなければやむを得ない選択であるが、ワクチンほどの効果はない。
経済への影響など諸々を考えると、ワクチン接種を急ぐのが最善手だ。医療従事者のワクチン接種を急いだのは、新型コロナ対策のためであり、集まってパーティを行うためでない。職場でのワクチン接種も始まるので、医療従事者はその協力も願いたい。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。