仮想のライバル・エアグルーヴとの因縁
先頭の景色を完璧に見た大差逃げ切り勝ちの金鯱賞は、ウマ娘でもスズカにとって転機となる。他のウマ娘にも衝撃を与え、スズカに挑みたいと心に火がつく。その次走となった宝塚記念で他馬に挑まれる形となるわけだが、史実通りに寄せ付けずに勝つと、エアグルーヴに話しかけられるシーンが登場する。
少し遡るが、スズカとエアグルーヴにはウマ娘内では因縁が設定されている。ゲーム内のストーリー2話で8着となったシーンは史実での弥生賞のイメージのレースであるが、模擬レース2戦目でトレーナーの指示通りに逃げず抑えたレースをするスズカが苦悩する中、横からエアグルーヴがブチ抜いている。しかしエアグルーヴは模擬レース2戦目の基となっている弥生賞には出走していない。
その後、ゲームでのエアグルーヴは宝塚記念で「成長したスズカ」と再戦する形になっている。そして宝塚記念でスズカが勝つと、エアグルーヴがプライドを賭けてスズカに再戦を申し込むのだ。
史実で再戦は実現していないが、当時牝馬最強だった女帝エアグルーヴと、無敵と化したスズカが宝塚記念の後に再戦したとしたら、という可能性を用意し、それを宝塚記念後に挑戦の申し込みを笑顔で受けるスズカの姿として描いているのである。
ウマ娘はゲームシナリオの制約上、デビュー時期が2歳相当のジュニア級に固定されているため現実との相違がどうしても発生するわけだが、そこを逆手に利用し、随所に「盛り込んできている」。なんと恐ろしいゲーム開発者の競馬愛だろうか。
サイレンススズカの史実における最期の話はしない。ウマ娘でのスズカのシナリオは最後が天皇賞(秋)である。思う存分、逃げて勝たせてあげてほしい。シナリオのラストが10月後半となるため、その後のURAファイナルズやチーム戦向けの育成をするための調整期間もとりやすく、ゲーム上では非常に育成しやすいウマ娘の一人となっている。
最後に、最初の主戦だった上村騎手は現在調教師として3年目。まだ重賞勝ちはないが、今年レイモンドバローズをG1に始めて出走させており、あのころスズカに寄り添った苦労がトレーナーとなって生きることで活躍してほしいと願うばかりである。
(公営競技ライター 佐藤永記)