農家などで運搬用に用いられる手押し車「ねこ車」を知っているだろうか。1輪でバランスをとるため、農作業や工事現場といった足場の悪いところで活用されている。しかし、荷物を積んで傾斜を進むのにはパワーとある程度の平衡感覚が必要だ。
それを電動化する道具「E-cat kit(イーキャットキット)」が広まりつつある。タイヤを交換するだけで電動化でき、力作業が苦手な人でも運搬が楽になる。広島県内の農業組合「JA尾道市」でも販売されおり、みかん農家などで活用されているという。
このE-cat kitの実演動画が、5月下旬ごろからSNS上で話題となっている。想定利用者ではないとみられる人からも「農作業しないけど欲しい」「カッコいいコレ!」「農家版セグウェイ...?」といった声が上がったのだ。
注目されたのは、オプションの立ち乗り用台車「ねこのしっぽ」。電動化されたねこ車後方に立ち乗り用の台車を繋げることで、歩かずともすいすいと進める。馴染んだ運搬具が未知の乗り物に変貌する。
J-CASTニュースは2021年5月31日、E-cat kitを開発したCuboRex(キューボレックス)本社に訪れ、実物を体験した。
シンプルでカスタム自在
一輪車電動化キットE-Cat Kitはかなりシンプルなものだった。既存のねこ車のタイヤをモーター内蔵ホイール(タイヤ)に交換し、バッテリー、コントローラ、アクセルレバー&ディスプレイを設置すれば電動化完了だ。バッテリー類は結束バンドやマジックテープなどで容易に設置することができ、コードさえ繋がっていればどこに設置しても問題ないため、ほとんどのねこ車に対応している。左利き用にすることも可能だ。
電動化されたねこ車は、アクセルレバーを握ることで走り出す。手を離せば止まるというシンプルな仕組みだ。パワーは5段階用意されており、ディスプレイで調整することができる。悪路に強く、30度の坂道も軽々登れるパワーを備えているため、平地で利用すると意外とスピードが出る。パワーを強めに設定して坂道を上ると、ねこ車に引っ張られるように前に進んだ。もちろん荷物を積んでも軽々と走った。
SNS上で話題となった立ち乗り用台車「ねこのしっぽ」も見せてもらった。こちらは二輪にできる猫車に設置されていた。一輪のねこ車に用いることもできるが、今回は安定感を重視し二輪のねこ車で体験してみた。二輪のねこ車は従来のものほど悪路に強くはないが、平衡感覚をつかみやすくなっている。
ねこのしっぽは、ねこ車の車輪後方のスタンドに繋ぐ。台車に乗ってアクセルを握ると、ねこ車が台車を引っ張り、風を切るように勢いよく進んだ。自転車のように猫車のレバーを傾けながら重心を移動させると、曲がることもできる。バランス感覚をつかむのには少しコツがいるが、記者は数分で自在に操ることができた。
これらを開発したのは、CuboRex代表取締役の寺嶋瑞仁さん。同社は2016年設立のベンチャー企業で、町工場が集積する東京・荒川区に開発拠点を構える。社員数は7人。
開発では、ねこ車の「地域差」に注目した。地形などによって用いるねこ車の形状が異なるため、どんなねこ車にも対応できるようにしたという。さらにエンジニアリングの知識がない人でも取り付け・使用できるよう工夫した結果、シンプルなキットが誕生した。