外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(40)哲学者スラヴォイ・ジジェク氏と考えるパンデミックの意味

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コロナにおける精神の危機

   ジジェク氏は、コロナ禍でもう一つ悲観的になった問題として、「精神の危機」を例に挙げた。

「報道によるとこの間、日本でもこの間、一時は減っていた自殺者が増えたという。欧州でも、精神科のクリニックに行く人が急増し、すぐに自殺しそうな危険性がなければ、診てもらえない状態になっている。これは、最も対処が難しいパンデミックの挑戦のように思える」

   それは、どういうことか。ジジェク氏によれば、人間は社会的存在であり、その日常を支えているのは、法律や命令には書かれていないような暗黙の習慣やルールだという。道で知人と会えば、イタリアではハグし、日本ではお辞儀をする。そうした日々の複雑な慣習やルールが、人々を寛いだ気持ちにさせている。だが、コロナ禍によるロックダウンで、そうした関係が断ち切られ、急に国家が人々の行動や態度について、こまごまとした指示をするようになると、人々は急な変化に耐えがたくなる。

「そうした行動制限は、感染防止には必要だし、私も指示に従う。だが、多くの人が、友人に会えなくなることを拒否し、マスクを強制されたくないと反発する気持ちも、私には理解できる。日常性を支えるルールや習慣を突然終わらせ、違うルールに従うことを強制されると、人によっては精神の危機、あるいは精神的破局を招きかねない」

   その点でジジェク氏が最も危惧するのは、若い世代、とりわけ学校で学ぶ児童・生徒だという。

「一学年全ての学習がオンラインになったら、どういうことが起きるのか。子どもは学校で教科の内容を学ぶだけではない。友達をつくり、喧嘩をし、社会性を身につける。そうした双方向的な社会性の形成が中断されるときに何が起きるのか、まだ誰も予測できない」
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