外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(40)哲学者スラヴォイ・ジジェク氏と考えるパンデミックの意味

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専制主義か民主主義か、どちらが有効

   私の次の質問は、このコロナ禍に対し、「専制主義」と「民主主義」のいずれのシステムが有効か、という議論についてだった。中国は早々にコロナ禍を封じ込めたが、いったん爆発的な感染拡大を許した米英も、急速なワクチン接種の普及で巻き返した。ジジェク氏はこう答えた。

「中国の専制主義がコロナ禍に有効だったと際限なく繰り返すのはたやすい。だが。法的には中国の一部でありながら、まったくシステムの異なる台湾は、中国と同じ程度に効果的に対処した。社会主義だが中国とは異なるベトナムも、効率的に封じ込めた。中国スタイルの専制主義が、唯一の解決策とはいえない」

   だがその一方、西側の「リベラル民主主義」を持ち上げることもできない、とジジェク氏はいう。

「冷戦後、この10年から15年の間、旧東欧やウクライナなどでは、西側民主主義をモデルとした抗議活動が相次いだ。だが、今欧州で起きているのは別のタイプの抗議活動だ。フランスの『黄色いベスト』運動がその典型だろう。これは専制主義に対するリベラル民主主義の抗議ではない。むしろ、『リベラル民主主義』に対する不満であり、自分たちの声が届かない、意見が代表されていない、自分たちが社会に受け入れられていないことへの抗議なのだ。私はそのことを憂慮している」

   だが、少なくとも西側民主主義は「自由」を保証している。専制主義のもとでは、公然と抗議活動をすることも許されていない。そうした私の指摘に対して、ジジェク氏はこう答えた。

「これは幾分皮肉なことだが、中国では人々は共産党がインターネットを規制し、電話を盗聴し、言論を統制していることを知っており、幻想は持っていない。だが西側世界では、中国と同じくらい社会統制が強まっているのに、人々はそのことに気づいていない。少なくとも米国やイスラエルなどでは、中国と同じほど監視が強まった。人々はどこにでも行けるし、何でも買えると思うだろう。何をするのも自由だ、と。だがその『自由』は、実はコントロールされ、規制されている。人々はそう気づき、リベラル民主主義そのものへの不満を募らせている。もちろん、リベラル民主主義は基本的に専制主義よりも良い。だがもはや、そのリベラル民主主義すら、解決策にはならない。そのシステム自体が危機に瀕しているからだ。私たちは新しい形式の政治体制を見つけねばならない」
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