台湾の外相にあたる呉※燮(※金ヘンにリットウ)・外交部長が2021年6月3日、日本外国特派員協会の記者会見にオンラインで出席し、日本からの新型コロナウイルスワクチン供給について謝意を述べた。
日本の支援は、台湾のワクチン確保が困難になっていることを受けたもの。台湾側は、ワクチン不足の原因は中国の介入にあると主張している。呉氏は「これは台湾だけの問題ではない」と話し、中国が展開する「ワクチン外交」に警鐘を鳴らした。
「関係強化を受け入れる国々には中国製ワクチンや資金を素早く提供」
台湾ではワクチンの確保が難航しており、蔡英文総統は、ワクチンメーカーとの契約が遅れているのは中国の介入が原因だと主張。中国は台湾に対して緊急支援を申し出ているが、台湾側は断っている。
呉氏は、日本によるワクチン供給については
「台湾と日本は非常に良い友人関係にあり、必要な時、特に自然災害の時には、常にお互いに手を差し伸べるようにしてきた。そして、お互いにこのような緊密な関係を維持していくだろう」
などと述べる一方で、中国がワクチンを武器に政治的影響力を強めようとする「ワクチン外交」に対する批判を展開した。
呉氏は、中国がワクチン外交を通じて西半球(主に中南米)で影響力を強めているとして、
「中国との関係強化を受け入れる国々には中国製ワクチンや資金を素早く提供し、その関係を使って、台湾と米国の同盟国に対して、中国に傾くように圧力をかけている」
などと非難した。
台湾へのワクチン供給に何が支障になっているか、という質問には
「これは台湾だけの問題ではない」
「これは公衆衛生のみの問題ではなく、国家の安全保障上の問題、国際経済の安全保障上の問題でもある」
と応じ、あらゆる国や地域が、中国のワクチン外交の影響でワクチン確保が困難になり得るとの見方を示した。台湾が置かれた状況については、次のように話した。
「例えば、台湾は偽情報(いわゆる『フェイクニュース』)による執拗な攻撃を受けている。この偽情報キャンペーンは、台湾の民主的制度に対する支持を低下させることを狙っている。したがって、台湾の民主的制度を浸食し、攻撃しようとする勢力は、ひとつしかないことが分かる」
呉氏によると、台湾は国産ワクチンの開発を進めており、7月末にも供給が始まる。その意義について
「台湾のワクチン需要に対して、最も重要な供給源になるだろう」
と話し、他国への輸出も可能になるとの見方を示した。
「JL809便で6月4日に」の意図を勘ぐる声には...
日本が提供した124万回分のワクチンは6月4日午後、日本航空(JAL)のJL809便で台北郊外の桃園国際空港に到着。6月4日は、1989年に民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧され、多数の死傷者が出た天安門事件が起こった日だ。6月3日夜には台北市内で「8964」を形にLEDライトを並べて点灯し、犠牲者を悼むイベントも行われた。
ネット上ではワクチン輸送のタイミングに意図があると疑う声もあったが、加藤勝信官房長官は6月4日午後の記者会見で
「あくまでも人道的観点から実施したものであり、この時期になったというのは、こちら側の調整、あるいは様々な調整の結果、まさにこのタイミングになった、ということだ」
と答弁し、否定した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)