防衛省が運営する大規模接種センターの予約システムをめぐり、複数の報道機関が架空の情報を入力して欠陥を確かめて報じた問題では、メディアの間でも意見が分かれている。
大規模接種の開始を機に各紙が社説を掲載し、中には架空入力について「適切な取材方法とは言えまい」「一連の報道の反社会性」といった厳しい言葉で非難したものもある。各紙で政策をめぐる論調が対立することは多いが、具体的な取材手法をめぐる批判が展開されることは珍しい。
毎日・朝日新聞出版は「公益性の高さ」強調
実際に予約システムに架空情報を入力して欠陥を報じたのは、毎日新聞、朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.(アエラドット)」、日経BPのニュースサイト「日経クロステック」の3媒体。このうち防衛省は毎日新聞、朝日新聞出版に抗議している。毎日新聞は19日の朝刊の記事で「事実であれば放置することで接種に影響が出る恐れもあり、公益性の高さから報道する必要があると判断」したと経緯を説明し、朝日新聞出版も同日付ウェブサイトで公表した「見解」で、
「取材過程における予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要不可欠な確認行為であり、記事にある通り、確認後にキャンセルしております」
「政府の施策を検証することは報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いものと考えております」
と反論している。
この問題は、各紙がワクチン接種に関する社説を掲載する際の論点にもなった。 産経新聞は5月20日付の社説にあたる「主張」の欄で、
「ワクチン架空予約 『報道の自由』に値しない」
と題した論説を掲載。毎日、朝日新聞出版の両社が架空入力を「正当化している」とした上で、防衛省が問題視した記事中の「まさにワクチンテロが出来てしまいます」といった証言を引用。両社の報道には「反社会性」があるとした。
読売新聞は5月25日付の社説で、防衛省に迅速な問題解決を求める中で、両社の報道を非難した。
「一部の報道機関が、虚偽の情報を入力して予約を取り、その手法を具体的に報じた。適切な取材方法とは言えまい。報道機関は責任を自覚する必要がある」
毎日社説は「架空入力」スルー、朝日は「記事には公益性があり、抗議は筋違い」
予約システムの問題に言及しつつ、取材手法の是非には触れない社説もある。日経新聞は5月24日付の社説で、次のように指摘している。
「17日の予約開始日に架空の番号を入力しても予約できることがわかった。アクセスが集中してもシステムに負荷のかからない方法を採用したようだ。ならば、前もって『簡易型』であることを説明しておくべきだった」
毎日新聞は5月25日付の社説で、架空入力問題が起きてから初めてワクチン接種について取り上げた。大規模接種会場での接種がスタートしたことに触れて
「二重予約も起こりえる。キャンセル分を無駄にせず有効活用する手立てを講じることが大切だ。その方法を住民に公表し、理解を得ておくことも求められる」
と論じたが、架空予約や取材のあり方には言及していない。朝日新聞は5月25日付の社説で、防衛省の抗議を批判した。
「取材過程における予約は真偽を確認するためで、その後キャンセルしたことから、希望者の機会を奪うようなものでもなかった。誰でも予約できるシステムの問題点を指摘した記事には公益性があり、抗議は筋違いだ」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)