自衛隊が運営する大規模接種センターの予約システムが、架空の情報でも予約できるようになっていた問題で、実際に架空情報を入力してシステムの欠陥を確かめた報道機関に対して防衛省が抗議した。
岸信夫防衛相はツイッターで「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」などと非難し、実兄の安倍晋三前首相も「極めて悪質な妨害愉快犯」と加勢。この振る舞いには、野党からは「『早い段階で気づかせてくれてありがとう』と言うのが本来の姿ではないか」などと疑問視する声も出ている。
「『早い段階で気づかせてくれてありがとう』と言うのが本来の姿ではないか」
実際に架空情報を入力してシステムの欠陥を報じたことが明らかになっているのは、毎日新聞、朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.(アエラドット)」、日経BPのニュースサイト「日経クロステック」の3媒体。岸氏は2021年5月18日朝の記者会見で、そのうち毎日新聞、朝日新聞出版に対して抗議する考えを明らかにした。日経BPが対象外になった理由は不明だ。
立憲民主党の枝野幸男代表は、この日夕方に行われた党会合で、
「システムの欠陥を指摘したメディアに対し、『早い段階で気づかせてくれてありがとう』と言うのが本来の姿ではないか」
として、防衛相による抗議は「意味不明な対応」だと批判。報道は「改善を促すきっかけ」だったとした。
「問題点を指摘して改善を促すきっかけをつくってくれたのだから、自分たちの落ち度に謙虚に向き合うのが本来の政治の姿ではないか」
「調査報道的に確認して報道するというのは当然のこと」
枝野氏は8年半ぶりの著書「枝野ビジョン」(文春新書)の出版を記念して5月19日に開いた記者会見でも、安倍氏がツイートしたことに関する質問に答える形で、前日と同様の見解を繰り返した。具体的には、
「取材方法についての色々なご意見はありうるのかもしれないが、少なくとも、欠陥と言われても仕方がないようなシステムで予約を始めたということは間違いないし、しかも、それを事前に知っていたという報道もある」
などと指摘。本来ならば防衛省が先に欠陥について情報公開するべきで、問題点を指摘する手法は「当然のこと」とした。
「だとしたら『こういう問題はありますが、時間が足りないから、やります』と、先に自分から示しておくのは当たり前だし、そうでないならば『こういう問題があるよ』というのを報道機関が一種の調査報道的に確認して報道するというのは当然のことで、報道機関を責める、しかも、まさに欠陥と言われても仕方がないシステムを作った当事者が言うというのは、見苦しい責任転嫁だと思っている」
立憲の安住淳国対委員長は5月19日朝、野党3党(立憲、国民、共産)で防衛省の担当者を呼んで事情を聴く考えを明らかにし、
「抗議よりも『穴を見つけていただいてありがとうございます』じゃないのか」
「毎日、朝日に抗議した防衛省に対して抗議をしたいという気持ち」
などと述べている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)