出版社と作家をつないできたコミティア
コミティアではコロナ禍以前まで、「出張マンガ編集部」というマンガ・イラストなどの持込を受け付ける企業ブースを設けていた。小学館、マッグガーデン、BookLiveはもちろん、集英社や講談社、スクウェア・エニックスなど多数の出版社が、未来の漫画家を探し求めてコミティアに参加していた。
なぜ、同人誌即売会で作家を探すのか。「マッグガーデン」(東京都千代田区)の取締役社長である飯田義弘さんはこう話す。
「以前まで漫画作家として商業出版に至るには、新人賞などで賞を取るか、作家のアシスタントとして力を蓄えるのが通例でした。こうした形に縛られず、『描きたい』『表現したい』という気持ちが強い人々に出会えることに魅力を感じています」
従来の持ち込みのような各出版社へ照準を合わせた作品ではなく、「描きたい」気持ちが先行した作品と出会えることに強い魅力を感じているという。
実際にマッグガーデンは、多くの作家にコミティアで出会った。現在連載中もしくは準備中の作家は10人以上。同社の看板作品「魔法使いの嫁」の作者・ヤマザキコレさんもその一人だ。担当編集・新福恭平さんは、ヤマザキさんと出会った当時のことをこう話す。
「僕が直接ブースを訪れ、本を買って読んだうえ、お声がけいたしました。同作品は当日行われた他社新人賞に落選、そこではご縁がなく今後どうしようか思案されていた中だったそうです」
新福さんは、商業出版志望者がたくさんの出版社に出会えるのも出張編集部がある同人誌即売会の魅力のひとつだと考えている。
「従来の出版社への持ち込み形式ですと、物理的・心理的負担が大きいですよね。コミティアについていえば、出張編集部が横並びにあることで、同日に多くの意見を受け取る事ができ、比較検討しやすい。また、出版社の選択肢が実は多い事もわかる。それによって代替選択肢を見出せたり、商業出版を行ってみたいと思うきっかけになったりするのは良い点だと思います」
マンガワン編集部も多くの作家に出会うためにブースを設けていた。和田さんはその背景として、作家を求める競争が激化していると明かした。
「当初はマンガワンの知名度が高くなかったので、こちらから待っていれば良い作家さんが来てくれるという状況ではありませんでした。
さらに昨今はウェブメディアを筆頭に媒体数も増えていますし、他社から声のかかった作家さんがすぐにデビューしてしまうこともある。
作家さんから出版社に来てくれる時代ではなく、どちらかと言えば、出版社が探しに行かなければならない時代だなと思っています」