【連載】MUTEKI DEAD SNAKEのBUCHIAGARU!! music
「Automatic」での鮮烈なデビューから23年。
日本を代表するシンガーソングライターとして、数多くのヒット曲を生み出してきた宇多田ヒカルさん。国内外の気鋭クリエイターとコラボするなど、常にリスナーを驚かせてきた。
そんな彼女が21年3月にリリースしたのが、映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のために書き下ろされた新曲「One Last Kiss」だ。
映画公開にあわせて公開されたMVは、わずか2日で300万回以上の再生数を記録(5月13日現在、再生数は3200万回超に)。日本のみならず、海外のデジタルチャートでもトップに躍り出るなど、大きなヒットを記録した。
宇多田さんの「One Last Kiss」には、どんな仕掛けがあるのだろうか。音楽作家のMUTEKI DEAD SNAKE(ムテキデッドスネーク)氏に解説してもらった。
ダンス・ミュージックのトレンドを反映
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の主題歌として大ヒットした宇多田ヒカルさんの「One Last Kiss」。自分が小さいころからの大スターだった宇多田ヒカルさんがまたとんでもない楽曲を発表したぞ!とテンションが上がりましたし、聴けば聴くほど、やはり只者ではなさすぎてシビれます。
◆宇多田ヒカル流の「ボーカルドロップ」にBUCHIAGARU!!
ダンス・ミュージックでは近年、楽曲のサビの部分で歌詞やメロディを実際に歌い上げて聴かせるのではなく、録音された声を加工してシンセの音のように組み合わせてフレーズを作成する"ボーカルドロップ"という手法がトレンドになっています。
世界的な音楽プロデューサー・DJのCalvin Harris(カルヴィン・ハリス)の楽曲「This Is What You Came For(feat. Rihanna)」で見られるようなサウンドです。
はじめて「One Last Kiss」を聴いた時に、「宇多田ヒカルさんがボーカルドロップをサビに持ってきている!」と驚いたのですが、よくよく聴いてみるとこちらの楽曲のサビはボーカルドロップ的なフレーズでありながらも、上記した楽曲とは異なり、声の加工は行なっておらず、実際に全ての音が歌われています。
日本においてボーカルドロップが使用された楽曲として頭に浮かんでくるのは、中田ヤスタカさんの楽曲「NANIMONO(feat.米津玄師)」とw-inds.さんの「We Don't Need To Talk Anymore」がありますが、これらの2曲でも声を加工して使用し、ボーカルドロップを作成しています。
どちらが優れているという話ではないのですが、「One Last Kiss」のように、ボーカルドロップのようなメロディを使いつつ、声を加工しないで制作されている楽曲はほとんど聴くことがないため、いい意味での違和感があります。
そもそも、楽曲のサビのほとんどを「Oh」という言葉だけで貫き通すことは非常に勇気がいることだと思いますし、声質の良さ、歌唱力があった上で、自分の声の特性をしっかり理解していないとできないことですよね。
また、デビューから20年以上経った今も、トレンドを取り入れ自分流に解釈し、進化し続けるその姿勢にとても感動しましたし、トップがトップである所以だなと思わされました。