高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
ワクチン「7月末までに高齢者接種完了」可能? 「通常では考えられない措置」に見る本気度

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   高齢者向けの新型コロナウイルスワクチン接種が本格化し、菅首相は2021年7月末までに終えたいとの意向を示している。はたしてできるのか。

   諸準備の上で、医療従事者等(約480万人)の先行・優先接種は2月17日に開始され、65歳以上高齢者(約3600万人)の優先接種は4月12日に開始されている。

   7月末までに高齢者に2回接種するためには、7200万回、単純計算すれば1日当たり80万人の接種が必要だ。4月の菅義偉首相の訪米により、ファイザー社からのワクチンの供給にはメドがたった。残りの問題は、日本国内で実際に接種ができるかどうかだ。

  • ワクチン接種の見通しは(写真はイメージです)
    ワクチン接種の見通しは(写真はイメージです)
  • ワクチン接種の見通しは(写真はイメージです)

重大なのはワクチンの打ち手不足

   ワクチン接種については、これまで種々の準備がなされてきた。予算手当は、昨年5月の2次補正で1300億円計上されている。今回のワクチン接種は、予防接種法に基づくものなので、実務についてこれまで厚生労働省中心で都道府県、市町村で検討され、昨年12月には実務マニュアルも作られ、自治体向けに説明会も行われている。ワクチン接種に伴う冷凍施設や配給体制も整備されている。

   これらの準備の中で、ネックとなり得るのは、予約体制とワクチンの打ち手不足だった。実際、高齢者のワクチン接種が本格的に始まると、一部の自治体では電話がつながらないとか混乱がでている。しかし、この混乱は、初期段階の事務ではよく見られるものなので、時間がたてばそのうちに収まるだろう。

   ワクチンの打ち手不足のほうが重大だ。ほとんどの民間予測では、7月末までに高齢者接種完了は無理といわれている。

   というのは、ワクチン接種の打ち手は、現行医師法では、医師又は医師の指示の下で看護師等(保健師、助産師、看護師若しくは准看護師)のみが行うとされているが、その供給がうまくできないといわれているからだ。

   しかし、4月26日、通常では考えられない措置が政府から打ち出された。驚くことに、これはほとんどのメディアで報道されていない。

「歯科医師」によるワクチン接種のための筋肉注射について

   その内容は、医師等の資格を有さない歯科医師が ワクチン接種のための筋肉内注射を行うことは医師法第17条に違反するが、今回、(1)歯科医師の協力なしでワクチン接種ができない、(2)筋肉内注射の経験か研修を受けている、(3)被接種者の同意――という条件があれば、医師法第17条との関係では違法性が阻却され得る、というものだ。

   率直にいえば、違法だが超法規的措置で違法でないというのだ。本来、違法かどうかは裁判所が判断するものであり、政府が言えないのに言っているので、超法規的措置とみていいだろう。

   筆者は長年役人経験があるが、こうした超法規的措置の通達は見たことがない。そのくらいびっくりしたが、いよいよ政府は背に腹は代えられない状況なので、7月末までに、重症化割合の比較的高い65歳以上高齢者全員のワクチン接種に向けて本気で取り組んでいるのだろう。

   となると、7月末までに高齢者接種完了は無理という民間予測も変更しないといけないだろう。ちなみに、政府が全国1741市区町村を対象に実施した調査で、「接種を7月末までに終えることができる」と約1500自治体が回答したという報道もあった。

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