政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は2021年5月7日夜に行われた菅義偉首相の記者会見に陪席し、変異株の監視対策の一環として、安価な抗原検査キットを活用した検査を積極的に行うように求めた。
尾身氏が挙げた根拠は大きく二つ。一つ目が、広島県で行った大規模PCR検査では、症状がある人の陽性率は9%なのに対して、症状がない人は1%と、かなり差があることだ。二つ目として「驚くことに...」という枕詞つきで紹介したのが、軽い症状があっても仕事に出る人が7~10%いるという調査結果だ。
体温以外に、「咳が出る」「呼吸がしにくい」「鼻水が出る」など15項目を入力
尾身氏は記者会見で広島県での調査結果に言及したのに続いて「もう一つの知見、ほかの自治体での知見」として、次のように述べた。
「驚くことに、倦怠(けんたい)感、ちょっと体の、病院に行くほどではない、ちょっと具合が悪いというような体の不調を訴えている多くの人が、実はその調査によると、軽い症状がある人の7%から10%の人が、実は仕事あるいは勉強で外に出ているということが分かってきた」
内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室によると、尾身氏が言及した「ほかの自治体での知見」だとみられるのは、長崎県が提供している健康管理システム「N-CHAT(エヌチャット)」の利用状況だ。
N-CHATは20年8月末から県内の企業や介護福祉施設などを対象に無償で提供が始まった。従業員がスマホで体温以外に、「咳が出る」「呼吸がしにくい」「鼻水が出る」など15項目の症状の有無を毎日入力する仕組み。管理者が入力状況をチェックして、感染者の早期発見やクラスターの未然防止に役立ててもらう。
首相会見後に開かれた西村康稔経済再生担当相の記者会見で、尾身氏は改めてN-CHATの利用状況について「驚くべきことに」という枕詞つきで言及した。
「職場などで、実は、驚くことに、ちょっとした体調の不良ですよね、そんなに熱が8度(38度)9分出て仕事するのがつらい、というのではなくて、倦怠感、ちょっと喉の不調、そういうようなことがある人が実は働いている人が多い」
尾身氏は「団体種別有症状率」と題したグラフを使いながら説明。グラフによると、21年3月から4月11日までの入力状況を集計した結果、体調を入力した人のうち症状がある人の割合は民間団体7.0%、病院10.8%、学校8.3%、自治体9.8%、その他9.3%、介護施設7.4%、障害者施設10.9%にのぼった。