リリースから10年を経て、再ブレークしているアニメソングがある。2010年のアニメ「化物語」で流れた「恋愛サーキュレーション」だ。
この曲は今、TikTokで繰り返し聴かれている。TikTokの国内週間楽曲ランキング「TikTok HOT SONG Weekly Ranking」で3月下旬に初の首位を獲得し、4月中旬までランキングベスト20以内をキープしていた。4月19日にはNiziUのメンバーもこの曲で踊るムービーを投稿している。
ところがTikTokでトレンドになっているのは、声優・花澤香菜さんのオリジナルの楽曲ではなくLizz Robinettさんという海外のシンガーによる英語カバーだ。10年の間にグローバルに愛される曲になったが、放送当時とは違った形で日本に逆輸入され、当時を知らない世代にも聴かれるようになった。
初出は11年前 それが...
恋愛サーキュレーションは2010年の楽曲で、アニメ「化物語」10話のオープニングテーマに採用された。花澤香菜さんが演じる千石撫子(せんごく・なでこ)のキャラクターソングであると共に、花澤さんの代表曲の一つでもある。花澤さんの声質を活かした軽快なポップチューンで、2010年前後を代表するアニメソングである。
男性アイドルや声優への作曲実績がある音楽作家のMUTEKI DEAD SNAKEさんは「恋愛サーキュレーション」をこう分析する。
「とにかく、歌詞・サウンド・歌い方全てにおいて、『かわいい』という印象を受けます。
言葉選び、印象的なグロッケンや柔らかいブラスの音色、花澤香菜さんのウィスパーボイスで語りかけるように歌われるラップと、どこを切り取ってもかわいらしく、聴いていてキュンとする要素が盛り沢山です。
また、この曲はサビが2段構成になっていて、曲の冒頭に採用されているサビはサビの後半部分なので、1番のBメロが終わってサビの前半部分が始まった時に、違うサビがはじまった、という感覚をリスナーに持たせ、いい意味での裏切り感を演出しています」
キュートな歌詞の作詞はmeg rockさん、作曲・編曲はアニソン界有数のヒットメーカーの神前暁さんである。リリース時から日本のアニメファン・ネットユーザーの間でもヒットし、ニコニコ動画ではオリジナルの振付で「踊ってみた」や「MAD」が作られて人気が出た。そして「化物語」も当時ブームになり海外のアニメファンにも波及、とここまでならよくあるアニソンの海外展開とさほど変わらないはずだったが、TikTokの登場が二度目のブームを巻き起こす。
「自分をかわいく見せることができる」
2016年にTikTokが登場すると、TikTokユーザーによりこの曲が共有され始める。ユーザーに拡散された動画で恋愛サーキュレーションは「流行歌」であり続けた。
中国ではアイドルオーディション番組「Youth With You」で中国語でカバーされたり、大手スマホメーカーXiaomiのCEO・雷軍氏が、自身の声を加工して替え歌を作り、決算報告の動画に載せて投稿していた程である。花澤さんも中国では高い人気があり、2019年に自身初の海外公演として上海でコンサートを行った際にも「恋愛サーキュレーション」を披露し、中国の観客も一体になって歓喜した。
実はLizz Robinettさんが「恋愛サーキュレーション」の英語カバーを最初にYouTubeに投稿したのは2012年。「化物語」のヒットからさほど経っていないが、それが2016年発のTikTokでブレークしたというのが特異な現象だ。TikTokにアップロードできる動画は最長60秒と短いが、ユーザーが趣向を凝らしてダンス動画やちょっとしたしぐさを録画した動画を投稿、かつてのニコニコ動画とは違う形で曲が共有されていて、振付も多彩だ。
Lizzさんの英語カバーは英語圏ユーザーのみならずアジア圏にも広がり、原曲を知らない日本のTikTokユーザーの間でもブレークしてきた。なぜTikTokとの相性がこれほどよかったのか、再びMUTEKI DEAD SNAKEさんに聞いてみる。
「TikTokは『自分をかわいく見せることができる』曲を選んで使用される傾向があると思うのですが、恋愛サーキュレーションには曲自体にキュンとするようなかわいい要素が盛り沢山なので、その曲にかわいい振りをつけて投稿することによって、自分をかわいく見せることができると、多くの人に思われたからだと思います。
英訳してもなおかわいらしさや、歌いたくなる語感の良さが残されており、TikTokがブームになると共に、この曲が海外でも再評価されるに至ったのだと思います」
原曲を知っている上の世代からは、TikTokでのブームを10~20代から知って驚く声も出ている。言語の壁を越えてカバーによって聴かれ続け、TikTokによって日本に逆輸入され再びブームが起きるというこの現象、「恋愛サーキュレーション」自体の曲の良さはもちろんだが、新しいSNSに適合してブームのリバイバルが起きた点で特筆に値する現象だろう。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)