東京・銀座にある昭和後期の名建築の中銀(なかぎん)カプセルタワービルだが、1972年の竣工から半世紀を目前に老朽化との厳しい戦いが続いている。
この3~4月を節目に管理組合が売却を決議し、住人の退去も続いている。保存・再生に取り組む渦中の人に現状を聞いた。
戦後名建築の一つ
1972年竣工の中銀カプセルタワービルは、故・黒川紀章氏が設計した集合住宅。最大の特徴は、カプセルタワーの名前通り部屋を1室ごとに独立して交換できる構造にある。都市の発展に合わせて建物のユニットを細胞の新陳代謝のように取り換えていくという当時の建築思想「メタボリズム」が結実した代表的なビルだ。
デザイン性と建築思想から名建築として評価が高い中銀カプセルタワーだが、結果的には完成以来カプセル交換はなされず大規模修繕も35年前に行われただけで、近年は老朽化が大きな課題であった。
2021年3月、カプセルのオーナーで構成される管理組合法人により敷地の売却が決議され、建物はオーナーから一旦地主の元に渡る。決議のニュースでタワーの行く末を心配する建築ファンの声も上がったが、何が起こっていたのか。管理組合の理事を務め、タワーの保存「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」にも携る前田達之さんに聞いた。
老朽化が最大の敵
前田さんによれば、施設の売却はあくまでオーナーから地主にビルの所有権を譲渡するだけで、建物の今後について何かが決まったわけではない。年度の変わり目で契約もあり、21年3月から4月にかけて退去がピークになっていたが、移転先などの目途が立たない賃借人もいるため、5月以降も残る人がわずかながらいる。 売却決議の最大の理由は老朽化であった。
「近年ずっと老朽化が大きな課題で、一方で修繕をしつつ建物を残してくれるデベロッパーを探していました。このような古い建築には国内よりも海外の企業の方が興味を示してくれていました。しかし昨今のコロナ感染拡大が収まらない中、なかなか話をまとめることが難しくなっています。管理組合では大規模修繕などの老朽化対策を講じることは難しいと考え、一旦もとの地主を買受人として組合から建物を譲渡することになります」(前田さん)
今後は地主主導で土地や建物の活用が模索されることになる。
カプセルは今でも交換可能
実はカプセルは現在の技術でもいつでも生産・取り換えが可能だが、こちらも交換コストが1室1000万円を超えるために実現に至っていない。「建設当時、カプセルは25年程度での交換を想定していたのですが、結果的に49年間交換されないままで、配管なども劣化しています」(前田さん)とのことで、老朽化を防ぐコストがかさみつつある。
「カプセルのオーナーとしてもこのビルを残したいと思いここまでやってきましたが、管理組合では大規模修繕などを実現するのが難しい状況でした。残したい建築で国内外に注目してくれる人も確かにいます。ビルの存廃については、まだ確定的なことは言えません」(前田さん)
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトでは、5月以降も引き続きビルの見学ツアーを催行していく。築49年を経ても建築ファンからの視線は衰えていない。
(J-CASTニュース編集部 大宮 高史)