「都が見殺しにした」 東京ビッグサイトの同人誌イベントに、緊急事態宣言下の「例外開催」はなぜ認められなかったのか

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   新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が発令された影響で、東京ビッグサイト青海展示棟(東京都江東区)で2021年4月25日に開催予定だったイベントが、前日に延期の決断を余儀なくされた。赤ブーブー通信社が主催する、個人が趣味で制作した本「同人誌」を売買するイベント「SUPER COMIC CITY GYU!!(以下スパコミ)」である。

   しかしプロ野球や一部舞台など有観客で実施されたイベントもあった。政府は、多大な混乱が生じてしまうと主催者が判断する場合には、直ちに無観客化・延期などをしなくてもよいという「例外措置」を取ることを認めている。

    では、なぜスパコミは例外措置の適用が認められなかったのだろうか。

  • 議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)と赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
    議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)と赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
  • 議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)
    議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)
  • 赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
    赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
  • J-LODliveは同人誌即売会にほとんど使えないという(出典:赤ブー社提供資料)
    J-LODliveは同人誌即売会にほとんど使えないという(出典:赤ブー社提供資料)
  • 感染症対策を講じたイベントを行ってきた(出典:赤ブー社提供資料)
    感染症対策を講じたイベントを行ってきた(出典:赤ブー社提供資料)
  • 議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)と赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
  • 議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)
  • 赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さん
  • J-LODliveは同人誌即売会にほとんど使えないという(出典:赤ブー社提供資料)
  • 感染症対策を講じたイベントを行ってきた(出典:赤ブー社提供資料)

イベント開催の「可能性」はあった

   赤ブーブー通信社は23日夜、緊急事態宣言発令に伴い、東京ビッグサイトから使用禁止が通達された。突然の延期は、協力企業や参加予定の人々に多大な損害を与える可能性がある。同社は翌24日、東京ビッグサイトを通じて東京都と協議を重ねていたという。

   都議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)は、こうした窮状を聞きつけ都に対して働きかけていたと明かす。

「24日14時ごろ、休日なので都には連絡がつかず。まずは東京ビッグサイトの担当者とお話をしました。重要なこととしては、例外で開催の可能性がありますということはおっしゃっていたことです」

   協議の焦点は、政府の定める例外措置が適用できるかどうか。栗下さんは、会場が判断しかねる問題だとして都庁へ連絡を試みたと話す。しかし24日は休日であるため、都庁の窓口は開いていない。栗下氏は緊急事態宣言の発表のタイミングを批判する。

「緊急事態宣言や人流抑制をしなければいけないということについては、この状況下において多くの人が認めるところだと思います。ただしそのタイミングが、周知できない休日であるということ、これが急に決まったこと、これは全部政治の責任です」

   また栗下氏は24日、会場の担当者から都の担当者を聞き出し、政府が発した例外措置を検討するように訴えたという。しかし、赤ブーブー通信社の主催するスパコミが実現することはなかった。

   ではなぜ、一部イベントは有観客で実施されていたのにもかかわらず、スパコミは例外措置が認められなかったのだろうか。J-CASTニュースは28日、関係各所を取材した。

なぜ「例外措置」は認められなかったのか、責任の所在は?

   東京ビッグサイトの広報担当者は取材に対し28日、都の判断に従ったと話す。

「東京ビッグサイトの所管は東京都産業労働局商工部です。 東京都の方針を決めるのは総務局総合防災部で、ここで決まったものが商工部に伝わります。そして商工部から所管の東京ビッグサイトに指示が伝わります。
そういう中で最終的な意思決定は、それに基づいて商工部の方でされたということですね。商工部も防災部と話して決めたかもしれませんが。いずれにせよ東京都側でそういう判断をしているということです」

   東京都産業労働局商工部調整課に、なぜスパコミに「例外措置」が認められなかったのか取材すると、担当者は「個別案件については答えられない」としながらも、東京ビッグサイトを含む都立施設等の使用可否については、東京都総務局や政策企画局の考えを産業労働局が伝えたのだと話す。

「総務局と政策企画局からの指示に基づいて産業労働局の方から各施設に指示をお伝えするという流れになっています。施設を使う・使わないという判断、考えそのものは総務局・政策企画局の方の考えに基づいて、我々は動きます。
総務局と政策企画局からは23日付で、都立施設等について、例外なく無観客あるいは休館を適用するようにという指示を受けていました。そういう認識を持って動いていました」

   産業労働局は、総務局と政策企画局から「劇場ホール、運動施設等については無観客によるイベント開催の場合を除き、原則休館とする。既に予約が入っている場合も同様の取り扱いとする」と指示を受けていたという。

「東京都全体の方針」

   そこで総務局総合防災部に取材すると、総務局は、都有施設などを無観客にするようにという通知は行っていると話した。

「都立施設等の扱いについて、東京都全体の方針としてお知らせしました。今休館している都立施設に加えてそれ以外の都立施設等についても、無観客の場合を除いて休館することとの通知をさせていただいています。東京ビッグサイトは都有施設に準じ、同様の取り扱いとなっています」

   ではなぜ、政府が例外を認めているのにもかかわらず都では認めなかったのだろうか。

「これは都有施設で、都の方針が反映されます。当然個別に事情があることは分かりますが、民間の方々にもかなり厳しい状況の中で我慢していただく中で、常に(小池百合子)知事も言っていますが、都の率先行動として範になるような行動をしなければいけないということは、都の議論の中でも論を待たないと思います」

   こうした判断について、都議の栗下氏は「都が見殺しにした」と強く非難する。

「国から例外措置というシステム・権限を貰っているのに、それを都の判断で利用しないで事業者に被害を及ぼすことは大問題です。この状況のなかで誰が責任をとるのか」

   そのうえで、今回の急な緊急事態宣言においては特別な補償が必要ではないかという見方を示す。

「これまでのコロナ期間中の補償施策とは次元が違っています。前々日だから発生してしまった損害は行政側の責任です。それに対してはこれまでの施策ではカバーできないですよね。特別な対応をすべきだと思います」

助成金に手間を割くよりはイベントを準備したほうが早い

   それでは今回の急な延期について行政からの支援を得ることはできるのだろうか。スパコミを開催予定だった赤ブーブー通信社の代表・赤桐弦さんによれば、今回の急な延期に関する補償は現段階で把握できていないという。

「19年の台風19号の影響で催事が相次いで中止となった影響を知ってくれた栗下都議が時間をかけて動いてくれたおかげで、いまは社会状況によって会場を使わなければ東京ビッグサイトの会場費は返ってくるようになりました。しかし補償については出来ないといわれています。
今回は議員さんたちが同人誌即売会も対象にしてくれた補助金制度『J-LODlive』を、という声もあるのですが、基本的にJ-LODliveは同人誌即売会にほとんど使えません。
普通のイベントは間に代理店が入っており、事務局費含めほとんどが外注費であり補償を受けられます。
同人誌即売会は事前の事務局運営費と制作費が主な費用、例えば弊社では経費の65%ほど、となっているのですが、ほとんどの実務を内製化しており補償対象にはなりません。
今回は会場費を除き、キャンセルの効かなかった一部当日経費が補償対象になるかもしれないので、少しだけ受けられるかもしれません。全体経費の数%くらいだと思いますが、、、。
文化庁の『ARTS for the future!』も申請するつもりですが、1団体1回までの申請となりますので、、何度も不規則に繰り返される宣言・処置を考えるとどこまで活用できるのかは微妙です。
大変ありがたいお話なのですが申請への手間も膨大なため、正直、助成金に手間を割くよりは、次に向かって対策を練る・開催準備の時間をしっかりとった方が前向きだし、むしろ倒産リスクを大きく減らせます」

   赤桐さんは、助成金は手間の割にリターンが少ないと漏らす。また「助成金目当てで営業しているのではない」として、参加者たちに徹底的に寄り添って真摯な対応を行っていくことのほうが大事だと話した。また実際に今回のイベント延期報告後、赤ブーブー通信社のもとには一晩で数多くのイベント参加申し込みが寄せられているそうだ。

同人誌即売会は「J-LODlive」の補償対象が少ない
同人誌即売会は「J-LODlive」の補償対象が少ない

   そのうえで赤桐さんは、補償も大事だが「会場費の減免」も強く求めている。

「大阪市のイベント施設『インテックス大阪』は会場費を減免してくれています。なぜ東京ビッグサイトではできないのでしょうか。
会場費が安くなれば、最も感染症対策に重要な『人流抑制・分割分散開催』にリスクを抑えて挑戦することが出来ます。実際に弊社ではたくさんのウィズコロナ禍のイベントを開催してきて、そのノウハウを蓄えてきております。
またイベント主催者は会場を広めに借りることも可能になりますし、仮に今回のように急な中止となってもイベントを続けられる企業体力を維持できます。
今回の補償ももちろん大事ですが、こうした事態が繰り返されるものとみています。そのために会場費の減免を強く求めております」

   栗下氏も「業界も相当疲弊しておりますから、未来に向けた施策も必要だ」という見方を示した。

「都は、『まだコロナ禍が続いている中で、イベントをやりなさいと都としてメッセージを送るようなことはできない』として、『コロナ禍が明けた時に施策を用意する』と言います。しかしそれから1年以上経っています。もう業界の体力が持たない。やはりそういう現実を見たうえで、『会場費減免』など適切な施策を検討していく必要があります」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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