外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(38)坂東眞理子さんと考える「男女格差」

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「ブルー・オーシャンを探そう」

   コロナ禍は世界的に男女の格差を広げ、平等への道を困難にしている。冒頭にあげたWEFの「世界のジェンダーギャップ報告書」はそう指摘した。世界的な感染流行の結果、世界のジェンダーギャップ解消にかかる時間は「99・5年」から「135・6年」へと「一世代分」増えたという指摘だ。もともと、女性の比率が高い非正規の職が削られたうえ、「ステイホーム」で家事労働の負担が増えるなどの影響が出ている。

   だがその一方、政府の閣僚や中央省庁の幹部から始まり、対策本部会議や対策分科会、専門家組織、医師会に至るまで、顔触れはほとんどが「男性優位」となっている。これでは、コロナ対策自体に、「ジェンダーバイアス」がかかり、女性の苦境や困難、悩みが反映されず、一層の負担を強いることは避けられないのではないだろうか。私のその質問に対し、坂東さんはこう話す。

「コロナは、これまで進まなかった在宅勤務を促すなど、変革を加速する面がある。その一方で、人間はそう簡単には変わらない。夫が在宅勤務になって通勤時間がなくなれば、家事をシェアすればいいと思っても、実際には妻が仕事をしながら食事も作り、子育てもする、というケースが少なくないのではないでしょうか」

   バブル崩壊後、景気は回復したのに企業はコストカットで人件費を削り、利益をあげてきた。そのしわ寄せを受けたのは、多くが働きながら子育てをする女性たちだった、と坂東さんはいう。

「子育てをしながらでも働ける。こんな支援も、あんな制度もありますよ、という『マミー・トラック』が、かえって社会進出を阻むトラップ(罠)になっている面があります。それは根底に、子育ては母親の責任、という無意識の思い込みがあるからです。コロナ禍は、そうした女性たちを追い詰めている。打破するには、女性たちが声をあげるのが第一歩です」

   最後に失礼ながら坂東さんに、「女子大学」の存在意義を尋ねた。これは「男女共学がスタンダード」という私自身の「無意識の偏見」から出た質問かもしれない。

   坂東さんは、すぐに朗らかな口調でこう答えた。

「あ、それは、はっきりしています。男女共学はフィクションの世界なんです。私が大学を卒業した時は、女性は入社試験さえ受けさせてもらえなかった。『大卒女子は採用しません』と公言する企業がほとんどで、唯一男女平等をうたっていたのが公務員でした」

   在学中は、「男女は平等」や、「能力さえあれば社会は評価してくれる」という「フィクション」を信じていた。

「女子大では、フィクションでなく、男性社会の中で生きていけるよう、現実を教えます。女性が自立して生きていくために必要な知識を共有し、乗り越える力を与える。それが女子大の使命です」

   インタビューを締めくくるにあたって坂東さんに、女性たちに贈るメッセージをお願いした。

「レッド・シーではなく、ブルー・オーシャンを探そう」

   それが答えだった。

   ちなみに「ブルー・オーシャン」とは経営学で使う言葉で、血で血を洗う既存の成熟した競合市場「レッド・シー(赤い海)」で戦うのではなく、競争のない未開拓の市場「ブルー・オーシャン」を切り拓け、という教えだという。

   男たちが足を引っ張り合う狭い世界に背を向けて、広大な未知の青い海原を目指せ。

   いかにも坂東さんらしい、爽快なメッセージだと思った。

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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