外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(38)坂東眞理子さんと考える「男女格差」

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大学キャンパスから見たコロナ禍

   以上見てきたように、海外での潮流の変化を受けて、日本はそれなりに男女格差是正の理念を掲げ、法改正や施策を重ねてきた。だが、大きく舵を切った外国が目覚ましい変化を遂げるなかで、日本は21世紀に相対的に大きく出遅れ、今も浮上の見込みが立たないのが現状だ。それは、この問題がいかに深く日本の伝統や文化、慣習にビルトインされ、変わりがたいのかを裏返しに物語っている。

   坂東眞理子さんは1969年に東大文学部を卒業し、総理府(現内閣府)に入省。婦人問題担当室専門官などを経て米ハーバード大客員研究員になり、内閣広報室参事官などを勤めた後、94年に総理府男女共同参画室長、になった。その後、埼玉県副知事や在豪州ブリスベン総領事などを経て2001年から03年まで内閣府男女共同参画局長を務めた。これまで見てきたように、文字通り「男女共同参画社会」の創成期から定着するまでを、一線で見守ってきた方だ。その坂東さんに4月12日,ZOOMで話をうかがった。

   坂東さんといえば、国民的ベストセラーになった「女性の品格」をはじめとする数々の著書を思い浮かべる人が多いだろう。あるいは昭和女子大理事長・総長として、国際化や地域貢献に取り組み、抜群の就職率で成功を収めるに至った大学改革の手腕でも世間に知られている。だが一方では昭和女子大教授、女性文化研究所長なども務め、女性政策や男女共同参画社会の理論的な支柱となってきたことも見落とせない。

   インタビューはまず、今年4月2日、人見記念講堂で開かれたばかりの入学式の話題から始まった。昨年は創立100周年を迎えながら、コロナ禍で対面での入学式を見送らざるを得なかった。参加者は新入生に限り、感染防止のため1席ずつ空けて着席し、保護者にはユーチューブでのライブ配信だったが、ともかくも2年ぶりの対面での入学式が実現した。

   坂東さんは、「コロナがなかったらいろいろなことができたのに、というのではなく、今できること、今だからできることに精一杯打ち込んで、機会を十分に活用してほしい」と語り、「ガールズ・ビー・アンビシャスとは、自分をより良くしていく、より高みを目指す。よりあらまほしき姿を目指すことです」と激励した。

   これは昨年来、坂東さんが唱えてきた「Never Waste Good Crisis(この危機を無駄にするな)」にも通じる言葉だ。昨春は、東京都に緊急事態宣言が出される前日に、「今だからできることをするヒント」の8項目のメッセージを学生に向かって発信した。「時間ができたら」と後回しにしていた読書や語学の勉強、時間のかかる趣味に取り組むなどのヒントだ。学生は対面講義やアルバイト、サークル活動などが断ち切られ、一種の「真空地帯」に置かれた。しかし、グローバル化や高度情報化が進んだ時代は、いつ何が起きてもおかしくない時代でもある。これからを生きていくには、想定外のことが起きた時に、いかに自分を成長させられるかが問われる。そう考えたうえでの激励のメッセージだった。

   昨年は卒業式、入学式がオンライン方式になり、前期は100%がオンライン講義。後期もゼミや実習を除き、7割前後の講義はオンラインになった。

「この危機を無駄にしない、というのは教員も同じです。オンラインで一方的に講義をしても、学生に90分集中して見てもらえるとは限らない。授業の設計そのものの見直しが必要になります。学生がどこまで知識を身に着け活用できるようになったのかを把握するには、フィードバックや丁寧なレポート指導も必要です。でもそれは、対面授業に戻ったときにもきっと役立つはずです」

   昭和女子大は1988年に米国のボストンにサテライトキャンパス「昭和ボストン」を開き、これまで13000人以上の学生が長期・中期・短期の語学集中講座や交流プログラムなどに参加してきた。また、卒業までに東明学林、望秀海浜学寮などで、教職員と学生が3泊4日の「学寮研修」に参加し、協調性などを養うのが伝統だった。だがこうした活動も、昨年はオンライン方式に切り替えるしかなかった、という。

「でも先日、ボストンの教員とZOOMで話したら、ボストン近郊ではワクチン接種が進んでいて、もう留学に来ても大丈夫といわれました。真珠湾など緒戦では劣勢でも、あっという間に戦略的に逆転をした太平洋戦争でのアメリカの底力を思い出しました」

   大学には、様々な意見や声が寄せられる。昨年7月、昭和女子大では上半期のオンライン授業を終えた翌日に「新入生の集い」を催したが、開催に当たっては「慎重であるべき」という反対意見も根強かった。

   坂東さんは、自由参加方式にして希望者を3回に分け、「密」を避けた上で体温検査など感染防止を重ねた上で、開催を決めた。附属校では授業をしているのに、大学だけはオンライン。何かあったら困る、責任を問われるとしり込みをするのは、ある意味で安全だ。しかし、入学以来、新入生は教師や友人に会ったこともない状態が続いていた。

   「社会の雰囲気に流されず、自分で判断し、選択をして最後までやり遂げる女性を育てる」のが教育方針のはず。坂東さんは、「不要不急の集まりではなく、学生にとって何より大事な集まりなんです」と関係者を説得し、開催にこぎつけたという。

「当時は、もし大学で感染が広がったらご世間にご迷惑をお掛けして、お詫びしなくてはいけない、という風潮が強かったように思います。万全の注意を払って絶対に感染させないという方法を探る前に、何かあったら困る、という慎重姿勢になる。それでは、危機をチャンスに変えることも難しくなるのではないでしょうか」
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